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堕天使マニピュレイション異世界楽章   作者: 愛沙 とし
四章
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錯綜する街の華達

 

 ━━━━━レッドを叩きつける途中で触手が、斬られ滑らかな断面を見せた。


「あんだけベラベラ喋ってれば嫌でも助けられるわよ」


 神宮寺聖桜(せお)が、ダマスカスロングソードを上段に構えていた。


 ***


 屋敷でヤハルア・グランソードに指南を受けた神宮寺聖桜(せお)は、血液の温度が急激に上がったように感じていた。

 異世界に生きていく事で疎かにしていた鍛練、その『鍛』を取り戻さなくてはいけない事に改めて気付く。


 ダマスカス製のロングソードを構える。左手をメインにして振る。右手は添える感じで振り下ろす時は、左手に沿わせる感じで滑らせる。


 重さは竹刀の3倍は感じる。日本刀に比べれば少し軽いが、今の自分の筋力では竹刀のようには扱えない。


 一太刀で斬るという事を意識して素振りを繰り返すが、やはり重量に難がある。


 聖桜(せお)は、ローク・ロードスの店でダマスカスロングソードを渡された時から、実戦を想定するようになっていた。


 真剣での戦いで使えない技が解ってきた。


 中段からの引き面・引き小手・引き胴・払い小手・返し胴・小手面などの二段、三段攻撃や片手面などの技はまず使えない。


 ベルトに鞘が固定されていて、鞘抜きが不可能となると居合いの抜刀も出来ない。


 そうなると、ダマスカスロングソードで剣術を使うには、上段が適していると解った。


 上段に構え剣の刃筋をしっかり立てるイメージをし、振る時にわずかに手元を引くことで斬る。


 屋敷のロビーの隅で真剣に繰り返した素振りで、聖桜(せお)は、短時間で型を習得していた。



 ━━━━━━━*



「貴方、意識があるのに邪悪ね」


 神宮寺聖桜(せお)は、青いヴェネチアンマスクを指で直した。


「むぅぅがぁ、不届きな貴様も、この偉大な神の力で邪神様の供物にしてくれる」


 フードの怪物男が、聖桜(せお)に左手を伸ばし襲い掛かった。


 聖桜(せお)は集中し心は水面のように落ち着いていた、剣を斜めに構えると半身にし華麗な足運びで、襲い来る腕を避ける。


 一刀一足の間合い、実際の有効射程はそれよりも一歩ないし半歩先、足運びと体捌きでそこに至る、斬撃の間合い。


 銀の木目が稲妻のように閃いた。


 総毛立つようなダマスカスロングソードの木目が、男の肩口に吸い込まれ抜けた。


 あまりの切れ味に痛みを感じなかった灰色のフードの怪物男は、肩に目をやると、遅れて肩の付け根から左腕がズルリと落ちた。


「ぐぅぅぐあー!」


 深く不快な血の臭いが、周囲に漂う。


 聖桜(せお)に微塵の迷いも無い、斬った後も注意を払うのが残心である、後ろへ下がり構え直す。


 このダマスカスロングソードは、見た目の重厚さと違い刃に弾力性があり、輝く刃紋に高い気品のある剣だと聖桜(せお)は感じていた。


「大人しく降参して、捕まりなさいよ」


「むぐぅぅぅ手加減していれば調子に乗りおって、脆弱なその手足を千切って井戸に沈めてやる」


「ーー!」


 狂気の怒りに震えるフードの怪物男は右腕、両足、胸から4本の触手の腕を伸ばし聖桜(せお)に攻撃する。

 

 足元の2本は足運びで躱したが、胸から伸びた腕で剣を握られてしまった。


 右の腕が聖桜(せお)の左手首をガシリと捕まえた。遅れて両足も捕まれる。


「このまま引き裂いてやろう、泣き喚きながら邪神様に祈れ!………何故、泣き叫ばん? 泣き喚け!」


「学習しないわね貴方」


 聖桜(せお)は、フードの怪物男の後ろを見ていた。


 既にレッドが、男の後ろで短剣を抜いていた。聖桜(せお)が腕を切り落とすのと同時に動いていた。


 ズブリとレッドの短剣の刃が、男の延髄に根元まで挿入されるとフードの怪物男は、麻痺して痙攣した後に絶命した。


「よくやったわ、レッド」


 身体から触手の腕を、剥がしてレッドに笑顔を向ける。


「ホントは遅らせてやろうと思ったけど、これでセオとの貸し借りは無しっす」


「やっと、名前を呼んでくれたわね」


「今日だけ特別、明日からは黒乳首っす」


「ええっ? 黒く無いわよ!」


 瓦礫を避けて汚れた神流(かんな)が、戻って来た。


「旦那!」

「あんなに跳ねと飛ばされたのに、よく平気ね」


「ああコイツのおかげだ」


 親指の指輪を見せる。


 触手の腕が、身体に当たる瞬間に指輪から神流(かんな)を、護る光りが胸と背中に収束して衝撃を軽減していた。


「て言うかお前達、俺を忘れていたろ?」


「助けに行こうとしたら、このフード男が邪魔したんですよ」


 神流(かんな)は、フードの怪物男に近寄り確認する。


「死んでるな、自業自得だし仕方無いか……シード・ジャーミィの屋敷に居た奴も同じフードだった気がする」


 紫の【黒い小箱(カプセル)】が見当たらない、完全同化という感じだ。


「今まで、こんな奴らの事は、聞いたことが無いですよ」


「それよりイーナは? オルフェは何処に行ったんだ?」


「えっ? オルフェには、動かないように言っておいたのに……」


「何を言ってんだよ、ど天然か? 早く探しに行くぞ!」


 イーナを乗せたオルフェを、見失ってしまった。


 ━━━━━***



「ーーおーるふぇ~、御主人様の所に戻ってよ~。いつも言うことを聞いてくれるのに、どうして聞いてくれないの?」


 イーナが首筋をポンポン叩くが、オルフェはトコトコ歩いて行く。


 馬の嗅覚は、犬に匹敵すると言われている。


 血や怪物の臭いでオルフェは、フレーメン現象を起こしていた。オルフェは長い鼻をクンクンさせて歩き出して行く。


 オルフェは、路地に入り傍らに生えてる草を食べだした。


「こんな時に子供が出歩いたら、危ないのよ!」


 イーナが馬上で振り向くと、アイボリーのローブを着た自分と同じ位の女の子が注意してくる。


「オルフェがね、草を食べてるの」


「何そのピンクのマスク、しかも、その首輪は奴隷じゃない。アナタなんなの?」


「アタシはEガールのイーナなの。アナタも子供じゃない」


 イーナが少女を嗜める風にいう。


「今、街には魔物が溢れてて危ないのよ」


「御主人様がいるから、アタシは怖くないの」


「……近くに居ないでしょ」


 のんびり草を食べるオルフェとイーナのおっとりした口調に、幼女も気が抜けてしまった。


「あっ猫ちゃんだ」


「ニイーー」


 幼女の胸元から出てきた黒い仔猫にイーナは色めき立つ。


「駄目よ、アリュー危ないから中に入っていて」


 仔猫は幼女の言うことを聞かず、頭の上に乗った。


「もう知らないから」


 そんな微笑ましい光景を見ていたイーナが、幼女に話しかける。


「可愛い~猫ちゃんもう可愛い、なんてお名前?」


「ワタシはルーニャ・ウネ」


「……黒い猫ちゃんは?」


「なによ、この子はアリューよ」


 ルーニャは、いつも通り紅い魔石のついた白クルミの杖を持ち、肩に掛かるアップルグリーンの髪を揺らす。


「とにかく避難しようよ」


『でもオルフェが言うことを聞いてくれないの」


「ワタシが話すわ」


 ルーニャがオルフェの耳元に口を寄せて、語りだすと口元が光り出した。


「スゴーイ、魔法だぁ」


「そうよ~魔法使いなのエッヘン。この子は嫌な臭いから離れただけだって、早く帰ってご飯食べたいって言ってる」


「ええっまだ食べるの?」


「さぁ避難するのよ、ワタシの後をついてきて」


 先に行くルーニャ・ウネを追い、イーナを乗せたオルフェは歩き出した。



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