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魔王の上履き

悪魔たちによる王都襲撃から4日、ティナを始めとする奇襲部隊は国境付近にある魔王軍駐屯地に凱旋した。


本来なら10日はかかる距離だが、圧倒的な機動力を誇る奇襲部隊はわずか一週間強でそこを往復しきってみせ、その武勲は駐屯する全悪魔たちの士気を高揚させた。

当然魔王も、ティナを始めとする奇襲部隊幹部たちにすぐさま褒美を用意する場を設けることとした。


「お父様、奇襲部隊隊長、ティナ、凱旋いたしました」


王座の前で膝まづき、実の娘は父を見上げた。


「あぁ、実に大儀であった」


その父、魔王は満足気に頷いた。

しかし、その視線は既に別のものに移っていた。


「早速褒美を取らせよう…と思ったのだが、ティナよその傍に抱えておる変なクツは一体なんじゃ?」


魔王は上履きに興味を示したのだ。


「はい、こちらは人間の国で入手した奇妙なクツです」


そう言ってティナは上履きを手に取ると、


「失礼します」


それを玉座の前まで持って行き、魔王の手前に置いた。


「どうぞお父様。お試し下さい」


「試す?人間のクツを儂に履けと?」


魔王が不愉快そうに顔を曲げる。

しかしティナは微笑むと


「いえ、不快ならば無理にとは言いません。しかし、私は帰路にこのクツを試してみたのですが、驚くばかりの性能でして、一度お父様にもお試し頂こうと思いました」


そう言いきった。


娘がそこまで言うクツだ。本当にすごいものなのだろう。魔王はそこまでは信じた。しかし、


「…ティナよ。おまえはこのクツを履いたのだな?となるとこのクツはおまえの足にの大きさに合っているということになる。となるとさすがに儂の足には合わんのではないか?」


当然と言えば当然のことを返す魔王。

しかしそれでもティナは微笑を崩さない。


「お試しになれば分かりますわ♪」


「う…む」


そこまで言われれば別に否定する理由はない。魔王は未だ納得できずにいるものの、とりあえず娘の言う通りに試してみることにした。


さて、今まで履いていた履物を脱ぎ、そのクツを足を移したまではいいが…


「…やはり、入る気がせん」


悪魔族の体長は平均的に人間よりも高く、魔王はその中でもかなり大きめな体躯を誇っている。当然足のサイズもそれに比例しており、人間用の靴などが入るとは到底思えない。


しかし最愛の娘が言うのだ。履いてみないわけにもいかない。


少しの間躊躇った魔王であったが、最終的にはええいままよと足を上履きに突っ込んだ。


すると


「お…お?」


入った。足が入ったのであった。


上履きの甲の部分に貼られているゴムテープが魔王の足のサイズに合わせて伸びている!

踵の部分は田中がいつも踏むようにして履いていたため既に折れ曲がっており、魔王もそれを踏む形で上履きを履いている。それにより踵がちょっとハミ出ているが、ゴムテープの圧迫の力により上履きは見事に魔王の足に固定されたのであった。


「なん…と」


魔王は上履きに感動を覚えた。

まさか、まさか人間にこんな文化があったとは!


「しかもお父様、それだけではございません」


続けて、ドヤ顔のティナが魔王の手を引き玉座からすっと立たせる。


そのまま魔王の手を引いて数本歩かせると…魔王はすぐに異変に気付いた。


「どういうことだ!?大理石の床だというのに全然滑らんではないか!!」


それを聞いたティナがさらにドヤる。


「どうやらお父様にも、このクツの素晴らしさがおわかりいただけたようですね」


「あぁ、よくわかったとも」


「…では」


ティナは父親に満面の笑みを向け、こう言った。


「そのクツはお父様に差し上げますわ」


「なんと、良いのか!」


魔王は感動で涙が出てきた。


「ええ、もちろん。お父様に使っていただく方がそのクツも幸せでしょう」


「そうか…わかった。大切にしよう。ティナよ、良き贈り物、感謝する」


父娘は、お互いに笑顔を向けあった。


こうして上履きは、魔王の所有物となったのであった。

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