上履きの買い取り
あれから数日。結局ゲオルクに10万G払わされたコルリは、受け取った珍しいボロクツをそれ以上の値段で買い取ってくれる悪趣味な店を探して王都へとやって来ていた。
しかし、ここでいきなり問題が発生する。
「はぁ?このボロいクツを売りに来ただぁ?売れるワケないだろ悪いことは言わんから出直してきなさい」
これは王都の正門にて通行人を検閲する門番の台詞である。
そう。コルリは王都にやっては来たものの、上履きを売るどころか都に入れもせずに終わってしまう危機に直面していた。
「だーかーらー!たしかにボロいけど珍しい材料でできてんの!!高級品かどーかはわからないけど、少なくとも希少なモノなのは確かなの!だから売れるハズなの!!」
「いや、仮にそれが本当だとしてもボロであることに変わりはないだろう。どうせ売れんぞ?」
「売れなかったらそれはそれで私の責任だから!とりあえず街に入れるだけ入れてよ〜!!ここまできて何もせずに帰るなんてできないから〜」
「しかしだなぁ……」
このような会話が既に20分近く続いていた。
「別に危険物を持ち込む訳じゃないんだからいいじゃない。何がダメだっての?」
コルリが若干キレ気味に尋ねる。
それに対し門番は
「いや、だから素材がわからんのだろう?危険物じゃない証拠がないじゃないか」
この返答である。
コルリは「ぐぬぬ」と唸り頭を掻いた。
「証拠はないけど……でもクツよ?危険性なんてないでしょう!?」
「いや、この世には魔法具なる物があってだなぁ…靴が爆発したり炸裂したりなんてことも無いとは限らず……」
「だったら!!」
コルリは机をバンと叩き上履きを門番に向け突き出した。
「アンタ自分で確かめて見なさいよ!!危険なんてないから!!」
「……まぁ、そうだな」
門番は警戒しつつも、上履きを受け取り、表面を撫でたり少し曲げたりしてみた。
「……本当に変な素材を使用しているな。伸縮性があるというか…」
「でしょ?でも危険性はなさそうだよね?」
ここぞとばかりにコルリが口を出す。
「…うむ。………たしかに。それでは、通行を許可しよう」
それが効いたのか、門番もとうとう通行を許可した。
コルリはやった!とガッツポーズを決める。
「それじゃあ、そこの通用門から街に入って…」
「待て」
「!?」
門番がコルリを通そうとしたところで、門の向こう側から1人の男が入ってきた。
その男を見て門番は、姿勢を正し、敬礼する。
「グスコー班長!お疲れ様です!!」
「班長?」
コルリが首を傾げる。
それを見たグスコー班長と呼ばれた男が説明を挟む。
「都の門番は兵士たちの当番制でな、本日は我々グスコー班が担当というわけなのだが……まぁ、それはいい。とりあえず、話は聞かせてもらった。早速だが、キミが持ってきたというクツを見せてもらおうか」
後半、突然クツのことを話し始めたグスコーに、コルリが警戒心を抱く。
がしかし、グスコーはそんなコルリを手で制すると、腰に下げていた袋を持ち、中身を開いてみせた。
「………これ、どういうこと?」
コルリが警戒心を解かぬままに問う。
「見ての通りだ。ここに20万G入っている。その珍しいクツとやらを私が買い取ってやろうという話だ」
そう。袋の中には1万G金貨が20枚入っていたのだ。
早すぎる話の運びに、コルリは動揺を隠せない。
「20万て…いいのか?珍しいとはいえこんなボロクツだぞ??」
「はっはっは!何を今更。それを売りに来たのはお主だろう」
しかしグスコーは気にした素振りも見せずに笑って見せた。
それを見て、コルリも考える。
たっぷり30秒、顎に手を当て考えた上で……
「……売ってやらぁ。後悔すんなよ」
金貨を受け取り、上履きをグスコーに手渡した。
「………」
その時見せた班長の笑顔に、近くにいた門番は、背筋が凍る思いだったという。
□■□
「班長。あの商人の女は帰りましたが……そのクツを一体どうするおつもりで?」
「あ?」
コルリが帰った後、門番はグスコーにこう尋ねた。
しかし
「………」
帰ってきたのは返答ではなく、あの笑顔だけだったという。