第9話 ニコが見た夢
「日の出の国」からの移住者が財を成すようになると、「大河の国」人が考えることは結婚を通して自分たちもいい思いをしたい、ということだ。
マリアという名の年頃の娘を持つ「大河の国」人ニコが考えたのもまさにそれだった。近所の農場主の息子であり「日の出の国」人のケニが娘に手を付けてくれることを願っていた。
日が暮れてから家にマリアがいればいつも叱りつけてケニの部屋まで訪ねて行かせた。嫌がれば殴って引きずって行った。
今日も日が暮れたというのにマリアは家にいた。
「この親不孝者が。さっさと子種をもらいに行かんか。馬鹿者」
そう言ってニコがビンタを張るとしぶしぶマリアは出て行った。
「おい、戸締りしておけ。マリアが帰って来れんようにな」
そう妻に命じて自分はのんびりテレビを見るニコだった。
程なくして妻から娘の妊娠を知らされたニコは有頂天だった。さっそくケニと両親に面会を求め、娘の腹の子の責任をとるよう迫った。だが返事はニコの期待したものではなかった。
「マリアさんのお相手はケニではありませんので、責任と言われましても。だいたい彼女はこの家に泊まったこともありませんよ」
何が何だか分からなくなったニコは急いで家に帰りマリアを問い詰めた。
「お父さんが怒るから、ケニの家に行くふりをして友達のリリの家に泊めてもらっていたの。ある夜リリのお兄さんに乱暴されて、、、でも、他に行くところもないから黙ってた」
怒りに任せてニコはマリアを殴る。
「この、役立たずが!オレの計画が台無しだ。勝手にててなし子でも生むがいい!」
その後絶望したマリアは自殺を遂げるが、ニコは後悔どころか「ケニに娘を弄ばれた悲劇の父親」を演じた。ニコの言葉を信じる仲間たちに脅迫され、身の危険を感じたケニたち一家は財産を処分して「日の出の国」に引き上げた。それでもニコの気持ちは収まらない。
(ケニさえ、マリアを孕ませてくれていれば)
(今ごろオレだって、広い家に住んで)
(一人一台、高級車に乗って、高い酒を飲んで)
(若い女中を雇って)
(それから、、、、それから、、、)
妄想はいつまでも尽きることはなかった。