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第8話 悪人天国

クオが28歳の夏のこと、携帯電話に知らない番号から着信があった。


「クオ君かね。タラの父親だが、娘が妊娠しておってね。ちょっと来てもらおうか」


(タラ?誰だ?)


とっさには思い出せなかった。よくよく考えてみれば冬休み期間に青年野球部の遠征で「平和」移住地〜今は正しくは「平和」市〜を訪れたことがあった。その時遊んだ女がタラらしかった。

クオは自慢の四駆で女を物色していた。好みではないがいつもポカンと口を開けた、股も緩そうな女を選んだのだった。


案の定、口も頭も股も緩いその女はその日のうちに四駆の車内でクオに身を任せた。お互い名乗ることもなかったのに、こうして自分のことを突き止めるとは、意外だった。だがどうしたものか。その時は両親健在だったが、何とか隠し通すつもりで従兄弟とともに「平和」移住地へ向かった。


結果は散々だった。向こうの親戚一同に取り囲まれ、恫喝され、結婚の約束をさせられてしまった。そこで知ったのはタラは17歳の高校二年生だということだった。

今月中に「大きな水」市で披露宴を行うことになったが、タラの腹は随分膨らんでいた。


親戚、友人にはもともと結婚するつもりだったかのように装ったが、「遊びのつもりが逃げられなくなった」ことは周知の事実。惨めだった。だが一番辛いのは将来を誓い合った恋人ルナと別れなくてはならないことだった。ルナは「赤い木の国」人の混血美女だ。彼女となら刺激的な生活ができたろうが、諦めるしかなかった。



ーーーーーーーーーー


午後4時。終業時間。クオは作業をやめ、シャワーを浴びてから行きつけのバーへと向かう。夏時間の今、午後4時は昼真っ只中であるが、既に何人かの仲間がいた。酒を飲んだあとは金を賭けてビリヤードをする。あまりに高額な賭け金のために他の連中は加わることができない。これがクオの平日の過ごし方だ。もっとも、蒔き付けと収穫の時は夜まで働く。反対に暇なときは朝、畑を車で見回って、あとはゴルフでもしていれば良かった。


(高い車に綺麗な妻か、、、)


幼い頃からのクオの夢は半分は叶って、半分は叶わなかった。グリ豆で成功して金はあるが妻は綺麗とは言い難い。


したたか酔っ払ったクオは自慢の四駆で帰宅する。アルコールの検問に引っかかる時もあるが警官に気前よくチップをはずめば「お気をつけて」と送り出してもらえる。逆に検査結果が白でもチップの払いが悪ければ罰金を食らう。


(悪人天国だよ。いい国だなあ)


とにかく自分が死にさえしなければいい。怖いものなしだった。

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