第6話 全て僕に任せて
ユチが未亡人になったのはもう10年以上も前のことだった。同じく「日の出の国」からの移住者である夫がグリ豆の不耕起栽培を始めて間もなくのことで、ずいぶんと借金もあった。このまま土地を他人に貸して生活しようと思ったユチだった。ところが亡き夫の友人で農業経営の相談役として雇っていた隣国「赤い木の国」人のロブが
「貸すことはいつでもできます。でも一年だけ頑張ってみませんか。私も協力します」
と言うので一年だけのつもりで何とかやってみた。すると収穫に恵まれあと1年、もう1年と続けるうちに借金も完済することができた。これもロブの指導のお陰だったが彼は給料以外は受け取ろうとしなかった。
何年か過ぎてユチは再び恋をした。「大河の国」人で混血と言っても先住民の血が濃いのか太く短い、年下の男だった。この男クラは草取り人夫として雇われたのだが言葉たくみにユチに取り入った。最初は優しいばかりのクラだったが、ユチが惹かれていくにつれて態度が変わった。
「籍を入れてくれなければ、別れるしかない」
と迫るようになった。同居している娘も婿ももちろん反対した。しかし盲目になったユチは正式に婚姻した。
まずクラは娘婿の悪口を言うようになった。同居して農業も継いでくれる婿殿である。ありがたいことだがクラに言われては逆らえない。娘ともども孫も連れて出て行ってもらった。するとクラは褒めてくれた。
「よくやったね。ユチ。これからは全て僕に任せて」
そう言って優しく抱きしめてくれる。
次はロブの番だった。
「あんな男が君のそばにいるのは嫌だ」
とクラがごねるのでロブには悪いが出て行ってもらった。退職金も無しで。
「外国人なんだから、訴えないだろ」
クラはそう言って笑った。全てクラの言う通りにすれば平穏だった。クラの両親、兄弟、親戚がこぞって金の無心にやって来るが、金さえ渡せば
「ユチはいい嫁だ」
と言って皆、満足してくれる。クラ自身が若い女を囲ったりすることにも目をつぶっていれば幸せだった。
そして今日もユチはクラたちの要求に応えるために土地を切り売りするのだった。亡き夫が残し、ロブが守った農地を。