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第5話 そんな女じゃない

コゲは「日の出の国」から「大きな水」移住地〜今は「大きな水」市〜に移住した準一世である。入植当時は皆が貧しかった。親たちは日の出とともに起き、日が暮れるまで野良仕事だった。周りは鬱蒼とした原生林で、遊びといえば釣りか狩りくらいなものだった。それさえも家の仕事の合間にこっそりと行われるだけだったが。


いくら頑張って野菜など作っても、過剰生産とかで売れなかった。牧畜をやる者もいたが儲かってはいないようだった。ところがふた昔ほど前にグリ豆の不耕起栽培が始まってから全てが一転した。大きな土地を買うなり借りるなりして、借金してでも大型機械を導入できた者は勝ち組に、そうでない者は負け組に決まったのだ。


もともと入植してきた者は一家族に1区画と、希望者には離れた場所にもう1区画だけ購入できるはずだった。ところが入植を取り仕切っているお代官様にゴマをすって酒瓶でもぶら下げて行けばいくらでも続いた土地を購入することができた。現在「大きな水」市に大きな土地を持っている者のほとんどはそういうことをして手に入れた者たちだ。


コゲの父親もそういう者たちの一人だったので、コゲは今や大農場主だ。男が金を持つとロクなことはない。コゲも「大河の国」人の女を愛人にしていた。「大河の国」は先住民の土地に西方系移民が入植して混血してできた国である。愛人のペラも異国情緒あふれるいい女だった。コゲの愛情以外何も望まぬ、いじらしい女なのだとコゲは確信していた。


ところがコゲの妻や子供達や親族までがペラと別れるように言うのだ。財産目当てに決まっている。さっさと別れろと。その度にコゲは


「ペラはそんな女じゃない。おれの愛情以外何も望まないやつなんだ。迷惑をかけることなど絶対にない」


と力説するが彼らには通じなかった。


「何も望まないって、家を建てて、車を買ってやったんだろ。金も相当渡しただろう」

「いや、、、それは、、、養育費とか色々あるし」

「けっ。子供までいたか」

「もう放っておいてくれ」


自分に一途に惚れている女と娘のルシを見捨てるなど、コゲにはできなかった。




ーーーーーーーーーー



ある雨の日、コゲはペラの家にいた。妻子は「日の出の国」に旅行中だった。ゆっくり寛ぐつもりだったが


「コゲ、アイスクリームを買いに行ってちょうだい。ルシが食べたいって」


とペラに言われて車を走らせる。ずいぶんと雨足が強い。なにやら急に眠気が襲ってきた。おかしい。まさか出がけに飲まされた茶に何かーーー

ブレーキを踏むが効かなかった。目の前にトラックが迫る。


コゲの車はトラックに突っ込んだ。即死だった。




コゲの死の翌日。


コゲの家では親族が集まって通夜と葬式の相談をしていた。生憎、妻と子供達は旅行中で不在である。コゲの妹が取り仕切って話を進めていた。

そこへ大声を出しながら入って来た男がいた。「大河の国」人だ。


「私は依頼人ルシ様の代理の弁護士だ。お前たち何をしている?コゲの妻子は不在だろう。今この国にいる人間で、この家に入る正当な権利を持つのはルシ様ただ一人だ。皆出て行け!」

「ルシの依頼?へえ、オムツした娘が弁護士を雇ったのかい。大したもんだ。悪いがこの人はコゲの実の妹だ。出て行くことはない。それとも、あんたが葬式代払ってくれるのかい?」


親族の反撃に怯んだ弁護士は出て行けとは言わなくなったが、「相続の対象だから」と言って家財道具に封印してまわった。コゲの家族と愛人ペラの長い戦いの始まりだった。


ーーーーーーーーーー



結局コゲの本妻も愛人も誰もが疲弊しただけだった。本妻側の弁護士と愛人側の弁護士が結託して何年も話を長引かせた。ペラは車を売り、家を手放して弁護士に支払いをしたがとうとう破産した。すると愛人側の弁護士は本妻のもとを訪ねて


「愛人側から貰えなくなった給料をあなたが立て替えてくれませんか」


などと図々しいことを言い出した。結局金の無くなった方が負けで、何がしかの金をもらってペラたちは引っ込んだのだった。


「日の出の国」人の男に寄ってくる「大河の国」人の女など金目当てがほとんどだが、当人たちはそれに気付かず幸せな夢に浸っているようで何よりである。

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