第4話 ミオ元奥様
60に近いイキの妻であるミオは移住二世でまだ40代だった。昔からかなりの肉食系で、イキと一緒になったのもミオの押しの一手のなせる技だった。
ミオは自分の容姿と能力には絶対の自信があった。
白い肌と長い髪は見る者を惹き付けてやまないはずだった。
だが実際には白い肌はブヨブヨとたるみ、立体が認識できるのか怪しいほどに接近した小さな二つの目は肉に埋もれていた。長い髪は干からび、下腹部のたるみなどは隠しようもないが、不思議と本人の目には映らないようだった。
ミオの趣味は写真だった。どんな写真よりも自撮りで顔をアップにしたものが好きだった。毎日顔だけをセッセと撮ってはSNSに載せるにが日課だった。
二男一女があるが男好きは相変わらずで、既婚であろうと外人〜外見が「日の出の国」の者と異なる人。先住民を除く〜であろうとお構いなしだった。時には相手の男の妻がイキに文句を言いに行ったり、証拠写真をSNSに投稿されたりしたが知らぬ存ぜぬで通した。身の潔白を訴えればいつもイキは受け入れた。
だがミオはそろそろ自由になりたかった。いつまでもイキと一緒にいて、義母の世話を押し付けられるのもうんざりだった。
まずは経済的自立を目指してミオはイキの金で大学に行き、会計士になった。ここ「大河の国」に国家試験というものはなく、医者だろうが弁護士だろうが大学さえ卒業すれば翌日から働けるのはありがたい。
イキの金で土地を買い、会計事務所を作ったミオは顧客を掴む傍らで家の帳簿を握った。税金対策としてイキにたくさんの書類にサインをさせた。そして唐突に離婚を切り出した。
イキは予期していたようだった。ミオが事務所以外の財産分与を辞退するとそれでは気が済まぬと車や貯金など差し出した。
だがイキは後で知りことになる。税金対策だと思っていた書類のなかに土地の名義変更の書類も混じっていたことに。彼は不動産の多くを失っていた。
どういうことか説明しろと押しかけてきたイキを前にしてミオは訳がわからなかった。自分のように若く美しい女が20年以上も一緒にいてやったのだから、もっと差し出しても良いはずだった。
裁判でもなんでも受けて立つと言い放ちイキを追い出したがどうにも納得できなかった。