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第3話 イキの旦那

日もとっぷりと暮れた頃、ラモはとなり村〜正確には「大きな水」市〜の地主イキの家に着いた。地主の旦那にしてはこじんまりとした家である。ラモは手を叩いて人を呼び、取り継ぎを頼んだ。


「となり村から「正直者のラモ」が来たとお伝え下せえ」


ラモがイキの畑で働いたのは2年ほど前のことだった。見張りがなくとも怠けることなく働き、ウソと盗みにも無縁のラモは「正直者」とあだ名され、イキにいたく気に入られたのだ。

できることならずっとイキのもとで働きたかったが、妻のナチャが礼拝所から離れることを拒んだため叶わなかった。それでもイキはラモに「気が変わったらいつでも来い。雇ってやる」と約束したのだ。


家から出てきたイキは少し痩せたようだった。しかしラモを見るなり


「どうした、正直者のラモ。ずいぶんと痩せたじゃないか。病気か?」


と、先住民の言葉で話しかけた。


(そうこなくっちゃ。やっぱりイキの旦那は違うなあ。他の旦那たちはオレたちの言葉なんか話そうともしねえ)


イキは幼い頃両親に連れられてここ「大河の国」に移住してきた準一世だ。当時は鬱蒼とした原生林を切り開く毎日でろくに学校にも通えなかったがなんとか公用語は覚えた。先住民たちを人夫として雇ううちにその言葉も覚えたのだった。もちろん家庭内では祖国「日の出の国」の言葉を使う。


「イキの旦那、オレを雇って頂けませんか」

「それはいいが、奥さんはどうした?」

「別れました。もともと籍も入ってやしません」

「それなら問題なしだな。人夫小屋が空いている。足りないものがあれば言ってくれ」

「へい。ありがとうございやす」


小屋に入り、一息ついたあと寝支度を整えているところにイキが入って来た。缶ビールを手にしている。


「今日は特別だ。一緒に飲もうか」

「いいんですかい。そりゃ、ありがとうございやす」


普段ラモは地主の畑で月曜の朝から土曜の昼まで働く。給料は週末にまとめてもらう。食事は自前のため月曜に前借りして近所の雑貨屋で食料を買う。いつも最低限の食事しかとらないラモだったが、こうして一緒に飲もうなどと言ってもらえるのはありがたいことだった。


飲んでいるうちに口も軽くなったのか、イキはぼそりと漏らした


「俺も離婚したんだよ。仲間だな」


「日の出の国」から「大きな水」市〜昔の呼び名は「大きな水」移住地〜に移住してきた者の間で離婚というのは非常に珍しい。外国において家族の絆がより重要視されているからかもしれない。




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