魔力回復
「そうさ。疲弊しているよ、今はね。だけどすぐに回復するさ」
その言葉に、テオは心臓を掴まれた気分になった。
当たり前だが、疲弊した肉体は時間が経てば回復する。それは魔族であろうが人間であろうが、それこそ健康な生物なら当然の話だ。
回復魔法と言った外傷を癒す術や、病魔退散のような特定の病気にのみ作用する魔法もある。大地が毒霧に犯されてなければ、そこから湧き上がる『マナ』の力で少しずつだが魔力を回復することもできる。
魔族の魔力がどう言った類で、どのようなメカニズムなのかは分からない。
人間以上の魔力を放出し、人間の知らない魔術を操る。
ならば魔族の魔力回復も人知を超えている可能性は、考慮しておくべきだったのだ。
「それで? 回復にどれだけかかるのですか? 一週間? それとも三日?」
こちらが優位であるという態度を崩すことなく、テオは虚勢を張る。
人間の魔法使いの場合、魔力全てを使い切ってしまえば、全回復まで十日ほど安静にする必要がある。王宮魔術師や錬金術の持つ秘薬を使えば、大地から『マナ』を得るのとは別に魔力を回復する術があると言われている。
テオが一週間や三日と言ったのは、それを基準としてだ。それよりは早いのだろうと大きく目測しての発言だったのだが、
「一週間? 三日? ふははは、この世界の人間は回復遅いよね! 宿屋で寝てもHPMP全快しないとか、マジ可哀そう! クソゲー乙!」
と、よくわからない言葉と共に罵られた。単語の意味は分からないが、魔族の魔力回復がテオが上げた期間よりも短いという事は確かなようだ。
作戦は破綻した。テオは手綱を強く握りしめ、動揺を隠そうとする。魔族が魔力を回復して襲い掛かられれば、対処する術はない。魔族の心のままに蹂躙されるだろう。生きて日の目を見ることができる事はない。
(さんざん挑発したからなぁ。せめてハンナだけでも逃がしたいけど……)
背後で座り込んでいる幼馴染の事を気にかけるテオ。魔族に奪われた領地を取り戻すべく、青螺旋騎士団に入団したハンナ。彼女だけは守らなければならない。姉の代理しかできない自分なんかよりも、彼女の方が生きるべきだ。
だがどうすればいい? ユニコーンに乗れないハンナは毒霧の中を逃亡できない。生存条件にユニコーンは必須だ。そして魔族がユニコーンを逃す理由はない。万策尽きたとはこのことか。
(イリーネ姉さん、カミル兄さん、ごめんなさい。やっぱりボクには荷が重かったです)
(せめて最後は、姉さんの名誉を穢さないように華々しく散ります――)
自分に姉の代理は務まらない。そんなことはずっと前からわかっていたけど。
テオは諦念と共に魔族を見る。こちらの絶望を知ってか否か、ヒデキは笑みを浮かべて口を開く。
「このヒデキ様は魔力回復に三時間あれば十分なんだよ!」
三時間――
それは人間が魔力回復を行うよりも格段に早く、驚異的な速度ではある。
だがそれは、この状況では。
「では三時間の間、絶望に苦しむんだな! ふひひひひひひ!」
言って魔族の姿が消える。おそらく魔力回復に専念するために『ヌィルバウフ空間』に移動したのだろう。
三時間後に魔族が襲い掛かってくる。逆に言えば、
(三時間は、安全ということなわけで……)
リベル湖の浄化はユニコーン三騎いれば、一時間で完了する。
三時間あれば、浄化終了して退却する時間も生まれるだろう。誰かがハンナと同行して毒霧から護ることを考えても、十分な時間だ。
「……レーナルト騎士、通信魔法で状況を二人に伝えてください」
「はい」
ハンナの通信魔法を通じて、魔族の状況を伝える。
そして今が好機であることを。
――リベル湖浄化作戦が再開される。




