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男だけど性転換してユニコーン騎士になっている件について  作者: どくどく
グテートス奪還 2日目 ~リベル湖浄化作戦
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テオの手札

 ハンナはイリーネ(テオ)の言葉に押される魔族を見て、呆気にとられていた。何が何だかわからない、というふうだ。

 何故魔族は襲い掛かってこない?

 何故魔族は肉の鞭を召喚しない?

 何故魔物はこちらに怯えている?

 初めて会った時のような圧倒的な力。それを使われれば、武装していない騎士二人など造作もなく捕らえることができるだろう。事実、触手の召喚で武装していた騎士三人を捕らえることができたのだ。

 その魔族が、明らかにこちらを警戒している。まさか目に見えない攻防が目の前で繰り広げられているのだろうか――


「どうするのです? このまま睨みあって、雨に濡れて風邪でも引いたらお互い辛いだけですよ」

「う、うるさい! い、いつ気づいた!?」

「何のことです?」

「ふざけるな! この世界の人間如きが、このヒデキ様をそんな目で見るな! こ、殺してやるぞ!」

「それができないから、そうやって怒鳴ってるんでしょう?」


 イリーネの優位は確定だ。挑発するように見下すイリーネに対し、魔族は明らかに動揺している。


(まさかイリーネは神の力に目覚めたとかで、魔族を凌駕する力を得たのかしら……?)


 ハンナがそう思うのも無理らしからぬことだ。

 そもそも今回の作戦は、魔族の圧倒的な戦闘力を恐れての奇策。武装を解き、浄化に専念した作戦だ。その脅威の大元である魔族を圧倒できるなら、このような作戦にはならなかった。魔族との戦闘を徹底的に避けることが大前提なのだ。

 なのに今は、その魔族を押している。それができるなら、危険を冒してこのような作戦を行う意味はなかった。魔族を倒し、安全に浄化を行えばいいのに――


「間抜けですね」


 テオは冷ややかに罵倒する。

 ため息すら不要だと呆れるように。

 名前すら忘れたとばかりに端的に。

 相手したくないと切り離すように。

 それ以外の言葉など無意味と短く。

 

「さっきのため池作製で、私達を襲えないぐらいに疲弊しているだなんて」


 魔族からの返答はない。

 それが正解であることを示すように、睨み上げる悔しそうな魔族の瞳。

 は、という形で止まるハンナの口。通信魔法を通じて、シャーロットとノエミも呆然としていた。

 そんな聞き手を意識しながら、テオはゆっくりと語りだす。名探偵が犯人に向けて推理を語るように。


「気づいたのは貴方が『ヌィルバウフ空間』から語り掛けてきた時です」

「馬鹿な!? あの会話でこのヒデキ様が秘密を漏らしたというのか!?」


 驚く魔族。その裏で『通信魔法』で会話するシャーロットとノエミとハンナ。


『あの……『ヌィルバウフ空間』……って何ですか?』

『確か……召喚魔法用語だったと思いますわ。私も詳しくは知りませんけど……』

『すごいです、イリーネ。そんな知識があっただなんて』

『槍の実力もあって、魔術にも精通している……さすが騎士長』


 尊敬の会話が脳に直接響く。何とも言えない気持ちになるテオ。


(まあ……僕も『アイン』に聞くまで知らなかったんだけどね)


 ハッタリに使えるかも、と使った言葉は意外な効果をもたらしたようだ。


「いいえ。言葉としては漏らしていません。というか、あの会話自体が秘密の暴露同然です」

「何……!?」

「貴方は今までその圧倒的な力を誇示するような戦い方をしてきました。

 わざわざ真正面に現れ、あの肉の鞭でこちらを攻めてくる。策など不要とばかりにこちらを蹂躙する。それが貴方の戦術スタイルです」


 策とは、弱者が強者に挑むためのモノである。

 術とは、弱者が強者に挑むためのモノである。

 圧倒的な力を持つ者は、その力で蹂躙すればいい。人が虫を潰すのに策や術は不要。同じように、魔族からすれば人は弱いモノだ。それを示すようにヒデキは真正面からこちらを圧倒しようとした。

 だが、ため池作製後は違う。

 空間に隠れ、こちらを挑発するように語り掛けてくる。イリーネの居場所を捕らえながら、しかし何もせずにハンナの方に向かった。まるでイリーネとの直接対決を拒むように。

 なぜそのような事になったかというと、先ほどテオが語った通り。ため池作製だ。


「あれだけ大きな池を短時間で作ったのです。そのエネルギーは相当の物でしょう。ええ、素晴らしいとは思いますよ、

 それで? この後どうするんです?」

「ぐ………!」

「ああ、『作ってみたら予想以上に疲れてしまった』……という事ですか。後先考えずに感情だけで突っ走り、そして無様を晒しているという事ですね」

「………っ! このヒデキ様を無様と言うな!」

「ああ失礼。無様を晒すのはこれからですね。武器も持たない人間に蹂躙される魔族。さぞ無様なのでしょうね。どのような気持ちか、聞いてもいいですか?」


 言葉で見下しながら、テオの心は緊張で倒れそうだった。

 魔族が疲弊しているのはわかっている。だがその疲弊具合は分からず、今襲い掛かられても撃退できるか否かは分からないのだ。相手が逆上して襲い掛かってくれば、こちらの戦力はユニコーンのみなのだ。

 だからといって弱気に出ればそれを悟られる。

 魔族がハンナを襲おうとしたのは、ユニコーンに乗っていない彼女なら何とかなるという判断なのだろう。ハンナを人質に取られれば、状況は一変する。相手に落ち着く暇を与えさせてはいけないのだ。


(……昨日といい今日といい……虚勢を張るしかできないなんて……)


 それしかできない自分に忸怩たる思いはあるが、それを顔に出さずに魔族を見る。

 絵札のカードは全て切った。もうテオに出来ることは何もない。

 だから、次の魔族の言葉に心臓を掴まれた。


「そうさ。疲弊しているよ、今はね。だけどすぐに回復するさ」

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