ヒデキの推理
「ふひ、ふひひひ……! 逃げられると、逃げられると思うなよ。この空気の中なら、どこまででも追いかけてやる……!」
ヒデキは空間を渡り、テオたちを追う。毒霧の中なら、物理的な距離は意味を為さない。逃げる先に回り込み、その足を止めてや――
「何……! 方向転換だと!?」
こちらに迫る馬が方向を変え、移動するのを確認するヒデキ。ヒデキが確認に使用したのは、<核>が発する毒霧が一定以上の濃度であるならそこにいる生物の存在を察知する能力。魔族としての基本能力の一つ。
それを使いあのユニコーンと馬の移動方向を察知し、その先に空間転移したのだ。まだ目視できる範囲ではないというのに、どうして……?
――ヒデキは知らない。その空間移動の術を察知されていることを。自分の術に察知されるような特性があることを。
「ふん。偶然だ! きっと大きな岩か何かがあって避けたとかそういうのだよ!」
そう決めつけて、ヒデキは再度空間を渡る。今度は待ち伏せではない。ユニコーンの進路真正面。急に目の前に現れれば、避けることもできないだろう。方向転換の為に減速している間に触手でその動きを捕らえてやる!
「もう逃がさない――え?」
ヒデキは空間を渡って移動して、彼女達の目の前に現れた。馬の速度を考えれば、避けられないはずだった。
だが二頭の馬は減速することなく走り、ヒデキの脇を通り抜ける。こちらが急に現れたことに驚くことなく、まるで初めからこう走ると決めていたように。
まるで、ヒデキがそこに現れることを知っていたかのように。
(どういうことだ? 空間転移の座標がずれていた? いや、それはない。ユニコーンによって多少空気の濃度は落ちているが、魔族の基本性能を低下させるほどじゃない。正確に転移はできたはず!)
ならどうして? こちらの予想を超えた動きを持つヒデキ。それは一つの能力にたどり着く。
「まさか――未来予知能力か!?」
未来を予測することができるチート能力。未来を知っているのなら、転移した自分がどのような場所に現れるかが分かるのだ。
(そう考えると『完璧触手』を避けたのも理解できる。触手の攻撃の軌跡を知っているから、避けることができたんだ)
(問題は見ることのできる時間だ。最低でも五秒先。それ以上の未来を知ることもできる事を考えないといけない……)
(レベル3の槍使いと未来予知能力……! それがあの女騎士の能力!)
思考の末にたどり着いた結論は、何とも見当違いも甚だしい者だった。普通なら荒唐無稽と笑い飛ばす結論だが、それができない理由があった。
ヒデキはその荒唐無稽な存在なのだ。
自分自身がチート能力を得ているため、同じチート能力の存在を否定できないでいた。自分と言う存在がいるのだから、同じような存在がいてもおかしくない。
そして一度思考して結論を得てしまえば、人間はその結論を簡単に否定できない。自分で導き出した答えなのだ。それを否定することは、自分自身の頭脳を否定することになる。
「ふひ、そうか。だがそこまで分かれば対策はとれるぞ。このヒデキ様の頭脳を侮り能力を見せすぎたようだな。この手のラノベや漫画はいくらでも見ているから、対策はたくさんあるぞぉ!」
大笑いするヒデキ。能力戦は相手の能力を探るのが基本だ。それを『知っている』と言うだけでかなりのアドバンテージが得られる。知らずに戦いを挑めば、死が待っていた。
魔族であるヒデキは厳密な意味では死なない。この肉体が滅んでも、<クリスタル>の持つ情報に従って再生されるだけだ。いわゆる『セーブポイント』と言う奴だ。そしてついさっき『セーブ』をしてきたところでもある。
だが、それを使うつもりはなかった。それもまたヒデキの持つ能力だ。それを知られてしまえば、相手に能力情報を渡すことになる。何よりも、負けることは許されなかった。自分は圧倒的な能力を持つ主人公なのだ。それが異世界の存在如きに負けるなどあるはずがない。
「予知しても逃げられないほどの封鎖だ。場所は……そうだな、あそこにするか」
空間を渡り移動するヒデキ。
魔族の圧倒的暴威が、今振るわれる。




