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男だけど性転換してユニコーン騎士になっている件について  作者: どくどく
グテートス奪還 2日目 ~リベル湖浄化作戦
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誇らしい逃亡

「あの魔族の呼び出す肉の鞭ですが――」


 時間は昨日の夜まで巻き戻る。

 テオは乾燥した喉を潤すようにコップの水を含む。少しぬるくなった水だが、この状況では心地良い。


「こちらの反応を超える速度で迫り、蛇のような柔らかい動きで絡みつき、こちらの動きを拘束してきます。その拘束力は人間の力では対抗することができるものではなく、それが複数。こちらの四肢や体に絡みついて動きを封じてきます」


(さらにはあの粘液で変な気分にさせられるわけだけど……)

(……報告でき(いえ)るわけないじゃない。そんなこと)

(全く、汚らわしい……!)


 心の中でテオのレポートに追加事項を乗せる女騎士達。この件に関しては隠せるだけ隠そうと一致団結した乙女達であった。


「端的に言えば捕まれば終わりです。その為、出会ったらすぐ逃げるのが最善策です」

「それはわかりました。ですが、逃げられるものなのでしょうか?」


 ハンナの疑問は当然だった。こちらの反応速度を超える動きをする生物相手に、どう逃げろというのか。


「あの肉の鞭は魔族の『声』によって呼び出されます。おそらく召喚魔法の類でしょう」

「はい。ですがその規模は桁違いです。王宮の宮廷魔術師ですら、何かしらの触媒を用いて、ようやく召喚可能となるのです。それを触媒無しでしかもあれだけの数をとなると……」


 召喚魔法。

 ここより別の世界に居る存在を、この世界に呼び寄せる魔法である。場所的な条件と、星の状態、この世界と別の世界を繋ぐ触媒と呼ばれる物質、そして魔術師の実力。それら条件がかみ合って、かつ長期間の儀式をもって異世界への『穴』を開けることができるのだ。

 その上で、『穴』から向こうの世界の存在がこちらにやってくるかは、まったくの運次第。何も来ることはない可能性も多い。コストと結果が伴わないが、運が良ければかなりの戦力アップとなるため、今なお研究が続けられているという。

 この世界の幻獣――青螺旋騎士団が騎乗しているユニコーンなども、異世界から召喚してきた動物であることが分かっている。そういう意味では、テオたちにもなじみある術式なのだ。


「はい。規模は違いますが、あれらは魔族により召喚されたモノでしょう。ならば魔族の気配を察した瞬間に移動を開始すれば逃げられるはず」

「……逃げられるのでしょうか?」

「あの肉の鞭は、植物のように地面から生えてきました。それを考えれば歩行などによる移動は不可能です。あの鞭の範囲外に逃げれば」


 騎士団三人は自分達を捕らえた肉の鞭の長さを思い出す。自分の身長よりは確かに長かったが、驚異的と言うレベルではない。馬の脚力なら、確かに逃げ切ることは可能だろう。

 だが、それはあくまで馬が駆け続ける限りの話だ。どうあっても初速は遅くなるし、何よりもずっと走り続ければ馬も疲弊する。


「――その為の、探査魔法です。あの時、騎士レーナルトは魔族の登場よりも先にその存在を探査できました」

「はい。空間転移レベルの『異常』はむしろ余の予兆があります。毒霧のない状態なら、その予兆を見過ごすことはないでしょう」

「魔族の出現を察知できたら、その状態から逃亡に入ります。これにより初速の遅れをカバー。武具の類を外すことで、馬の負担を減らします」


 シャーロットとノエミの二人から不満が出たが、反対意見はなかった。真正面から戦っても勝てる見込みはない。代替案のない二人からすれば、反対してもその後が続かないのだ。無駄に反対してミーティングを長引かせるほど、無能ではない。


「ですが、それでも逃げられるものなのでしょうか? あの肉の鞭は離れていた私の足元にも生えてきました。延々と追いかけられれば、何時かは……」

「はい。ですがそれも限界があるはずです」

「限界?」

「魔族が空間を渡って去った時、貴方達を拘束している肉の鞭は消え去りました」


 ここからは推測だ。事実に基づいた想像ともいえる事。そうであってほしいと言う願いでもある。


「おそらく、空間移動と肉の鞭の使役は同時にはできないはないでしょうか」

「……あ」

「逃げ続ければ、魔族は私達を追うために移動します。それはおそらく空間移動でしょう。もし推測が正しければその時にあの肉の鞭の追撃が止むはずです」


 これら推測が正しくとも、問題は残る。

 魔族からどこまで逃げきれるのか。空間移動した魔族が連続で触手を召喚するのではないか。触手召喚の範囲はどこまでなのか。そして自分達の知りえない情報があるのではないか。

 細い橋を渡っているようだ。しかも目の前には霧がかかっており、霧の先に無事な足元があるかなんてわからない。

 だが、安全な道を歩くことは誰にでもできる。

 危険な道を目をつぶって歩くことも、無謀なものならできるだろう。

 危険な道を、可能な限り安全に歩くこと。それを行える人間は少ない。


「だから逃げます。そうすることで活路を見出す為に」


 テオは誇らしく、逃げる道を選択する。

 万全でなくとも。穴だらけの作戦でも。そうすることがベストと判断したのだから。



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