天候は雨
その日は朝から雨が降り続いていた。
「雨……リベル湖周辺はかなりぬかるんでいるでしょうね」
「ですわね。足を取られないように注意しなくては」
雨の中、ユニコーンに乗った青螺旋騎士団が出陣する。雨避けように水を通さない革製の外套を羽織り、雨の降る中を進んでいた。
「この雨がいい方向に働いてくれるといいんですけど……」
「相手は魔族ですから、期待は禁物です」
雨。天候はいつだって作戦に大きく影響する。騎乗戦においてはその足場や視界が制限される。馬の体力も大きく消耗し、不利な条件がいくつも追加される。そういう意味では作戦決行は避けるという選択肢もある。
「作戦は昨日告げた通りです。無理はしない。誰一人欠けることなく帰還することを第一義にしてください」
テオは手綱を握り、作戦の最終確認を告げた。作戦中止はない。時間がこちらに有利に働くかどうかはわからない。ならば動けるときに動こう。それがテオの判断だ。ただし無茶はしない。それが条件だと。
今日の出陣は直前まで悩んでいた。テオは時代に残るほどの才はないが、かといって愚かではない。雨が騎乗戦に大きく影響することは十分に理解している。ましてや相手は十全の状態で挑んでも勝ち目のない魔族だ。だが、
(……丸一日彼女達と一緒に居ると……ボクは男としていろいろ限界が……!)
(昨日の夜もいろいろ危なかったし……!)
女子同士の距離感は、男性同士の距離感と異なる。それを昨日の夜も身をもって思い知らされた。あれが一日中続くと思うと、拷問である。
無論、んなアホな理由(テオからすれば割と切実だが)だけで、決断したわけでは無い。雨は確かに厄介だが、逆に利点もある。それを考慮しての判断だ。
(もっともその有利な点が、魔族相手にどれだけ通じるかはわからないんだけど)
テオは改めて魔族の事を思う。空間を渡り現れ、強力なしもべを使役し、視界外に居る相手にも攻撃を仕掛けることができた。こちらの常識を易々と覆る強さを有しているのだ。
退けることができたのは、偶然でしかない。まともに戦えば、確実に負ける。
そんな存在を相手にして、湖浄化と言うことができるのか。それを問われれば無理と言う結論が出る。勝ち目はない奴を相手しながら、一時間浄化作業の為にユニコーンを止めておく。どう考えても自殺行為だ。
だがそれをどうにかしなければ、この街は魔族の脅威に怯え続けることになる。それを解決する為の青螺旋騎士団なのだ。
(ま……どうにかと言う意味ではこの作戦は有効か。騎士団としては問題だけど……)
作戦発表時の三人の顔を思い出し、テオはため息を吐いた。最終的には他に案がないこともあり、決行となる。外套のフードで顔は見えないしその呟きが聞こえないが、三人はまだ納得していないのだろうとテオは思っている。
だが、やるしかない。正直不安の方が大きい。だけど賽は投げられたのだ。
グテートスの門を出る青螺旋騎士団。
四騎の騎士団は、雨の草原を蹴ってリベル湖までの道を突き進んだ。




