作戦会議 ハンナ&シャーロット&ノエミのターン
「その上で皆に問います。リベル湖浄化作戦を行うか、湖浄化を後回しにして別地域の浄化に進むか」
青螺旋騎士団長イリーナ・ゲブハルト――実はテオなのだが――の問いに、部下のハンナとシャーロットとノエミは口を紡ぐ。
それは思考の為。自分の考えを纏めるための行為。
他の団員と相談をする、という事も考えた。だけどそれは敢えてしなかった。
三人にはこの問いに対する答えは、すでに決まっていたからだ。
※ ※ ※
(イリーネの判断は正しい。確かにあの魔族との抗戦を考えれば、リベル湖浄化作戦は困難だ)
それはイリーナに指摘される前から思っていたことだ。魔族は目視できない相手にも攻撃を加えることができる。それを考えると、知らぬ間に攻撃を受ける可能性が高いのはこちらなのだ。
(でもリベル湖浄化を後回しにすれば、概算でも倍近くの手間が予想される。それは……その間、ずっとイリーネと一緒に居られる、ってこと、だけど。そうなれば、いろいろと、あんなことや、こんなことも)
ハンナは心の奥で私情のまま思っていた。騎士団としてどうなのかと理性では思いながら、妄想は止まらない。
そう、これは妄想なのだ。一言でいえば、つらい現実から逃れるための逃避行動。
何のためにイリーネの後をついて騎士団に入ったのか。それは彼女をサポートするためだ。
(決まってる。私が取るべき道は初めから)
(その為にイリーネが頼るなら、私は全身全霊をもって応えるだけ)
※ ※ ※
(騎士長の意見は正しい。確かにあの魔族との抗戦を考えれば、リベル湖浄化作戦は困難よね)
シャーロットは今日相対した魔族の事を思い、作戦の困難を再認識する。魔族が操る触手の動きは速い。確かに初見だったこともあり対応が遅れたことは事実だが、決して気は抜いていなかった。まともに戦えば、百万回挑んでも勝利はない。今まで相対した『護り手』クラスの魔族の中でも、トップクラスの強さだ。
(騎士長は、私達を気遣ってくれているのよね。一人だと勝てるけど、私達がいるから……私がもう少し強ければ、騎士長と肩を並べて戦えるほど強ければ!)
拳を握るシャーロット。それは自分の理想と現実の差。高みを目指した少女が見つけた星に向かい、精一杯手を伸ばすひたむきな思い。ここで退くことは簡単だ。きっとその方が安全なのだ。
それはイリーネの事実を知る者から見れば滑稽かもしれないが、それでもシャーロットは自らの目的の為に前を見る。
(そうだ。私は強くなる。騎士長みたいに)
(その為には、ここで怖気づいちゃいけないんだ)
※ ※ ※
(団長の意見は正しいですわ。確かにあの魔族との抗戦を考えれば、リベル湖浄化作戦は困難。それは彼我の戦力を知れば明白ですわ)
ノエミは冷静に状況を分析していた。例えユニコーン騎士団三騎で挑んだとしても、勝ち目はないだろう。いや、王国最強の竜騎士を持って、ようやく勝負になるかならないか。あの魔族と人間とでは、大きな隔たりがある。
(団長がリベル湖作戦回避の案を出すのは至極当然。読めていましたわ。ですがその顔は予想外です。もう少し、怯えの表情があるか、あるいは自分の意見を強行すると思っていましたのに……)
ノエミはイリーネが弱体化したことを知っている。ならばもう少し弱気になり、表情に恐れなどの感情が出ると思っていた。
だが、イリーネの顔は真っ直ぐにこちらを見て、部下に意見を求める長の顔だ。弱く儚い小鳥のくせに、そこに居るのは雌獅子を彷彿させる堂々とした顔。
(ふふ、いいですわ。そのか細い花を護るのも貴族の務め。いいえ、私の務め。その気高い精神を守るのも、私の務めです)
※ ※ ※
「決まっています。リベル湖浄化です」
「騎士長、やりましょう」
「やらせていただきますわ、団長」
ハンナとシャーロットとノエミは同時に意見する。リベル湖浄化に賛成とばかりに、真っ直ぐにテオの目を見る。
「……わかりました。ではリベル湖浄化の為の作戦を改めて発表します」
(ああ、全員湖浄化かぁ……)
心の中で盛大にため息をついて、テオは三人の女騎士の目を見る。三者三様の強い眼差し。
(その期待に少しでも応えられるといいなぁ……正直、短時間で考えた策だし)
下策だろうが、やるしかない。
テオは腹をくくって、説明を開始した。




