作戦会議 テオのターン
「明日からの作戦について、だけど」
駐屯所に戻り、一息ついてからテオが切り出した。ハンナが淹れてくれたお茶を口にする。喉を十分に潤してから話を続けた。
「元々の作戦ではグテートスの街南東方向にあるリベル湖を浄化する予定でした。ですが、その障害となるべき存在が発覚しました」
「魔族、ですね」
ハンナの言葉に頷くテオ。それはシャーロットもノエミも理解していることだ。
「リベル湖の浄化にかかる時間はユニコーン三騎で一時間ほど。浄化には角を湖に漬ける必要があるため、その間は動くことはできません」
「憑依型の魔族なら一時浄化を停止して追い返せばいいんだけど、あの気持ち悪いのに襲われたら……どうしようもないわね」
「ええ。遺憾ながら、あの魔族の攻撃は見て避けられるものではありませんわ。口惜しいですが湖浄化が難しいのは認めざるを得ません」
ハンナ、シャーロット、ノエミは口々に同意する。現状のまま作戦を実行すれば、魔族に襲われれば全滅の危機がある。
「あの……騎士長に魔族を押さえてもらって、その間に二騎で浄化を行うと言うんはどうでしょうか? 浄化の時間はかかりますが、これなら安全に作業を行うことができると思います」
「その案は考えましたが――」
ハンナの提案にテオは咳払いをして応える。イリーネ姉さんならそうするだろうと思っていた作戦だったため、それを却下する案は想定済みだった。
「相手は空間を渡り、こちらの想像以上の速度で動きます。その作戦を行ったとしても、私と戦わずにみんなの方に転移される可能性が高いでしょう」
「そうですね。騎士長だけを相手しなければいけない理由がありませんからね」
ハンナは納得し、案をひっこめる。だが心の中ではある確信を抱いていた。イリーネならこうするであろう作戦を、自ら否定したのだ。
(やっぱり、イリーネは変わった。まるで別人みたいに……)
「じゃあどうするんですか? リベル湖は後回しにして別の場所を浄化……とか?」
「それは愚策ですわ。湖の生物が変異した魔族。これを押さえておかないといけません。湖浄化の戦略面での目的は、湖から発生する魔族のリスク排除です。リベル湖を放置すれば、別の浄化作戦中に湖から発生した魔族に襲われかねません」
シャーロットの提案にノエミが意見する。そんなことはわかってるわよ、と唇を尖らせるシャーロット。
元々リベル湖は多くの魚が住む生態系を有していた。その湖が魔族の毒に侵されたということは、生態系全てが魔族化しているとみてもいい。ここを浄化することは、魔族数の減衰につながる。故に優先度は高く、後回しにする選択肢は愚と言われても仕方ない。
無論、テオとてそれはわかっている。
「ですが、あの魔族の脅威はそれ以上です。湖を浄化するリスクは高く、そのリスクと湖から生まれる魔族のリスクを天秤にかければ……残念ですが後者の方が低いと判断せざるを得ません」
テオの一言に、三人は言葉を止める。納得できる一言だった。
「その上で皆に問います。リベル湖浄化作戦を行うか、湖浄化を後回しにして別地域の浄化に進むか」
できれば後回しにしたいなぁ、と思いながらテオは言う。
実の所、この流れは事前にカミルから託されたシナリオ通りだった。危険な作戦を後回しにするために、こうすれば時間が稼げる。そうすることでユニコーン騎士団全滅のリスクを下げるように、と。
だが、最後の部分は異なる。カミルは『騎士長権限で有無を言わさず強行しろ』と言ったのだが、テオはそうしなかった。皆の意見を尊重したかった。
皆から受ける尊敬の念。それを思えば、彼女たちを『駒』と割り切って扱うことはテオにはできなかったのだ。
だがその尊敬の念は、厳密には違うものだ。
(この尊敬の念はイリーネ姉さんへの物。ボクへ向けられたものじゃない)
(そんなことはわかっている。ボクは皆をだましている。そんなボクが尊敬されることなんてあるはずがない)
(それでも……彼女達を『駒』のように扱いたくない)




