作戦終了。凱旋と今後と
『通信再開します。騎士位ハンナ・レーナルト、任務に戻ります』
「准騎士位シャーロット・ナイゼル、任務再開します」
「同じく准騎士位ノエミ・ベイロン、任務再開いたしますわ」
戻ってきた青螺旋騎士団員はイリーネに敬礼する。
「皆、休憩して気合が入ったようね。休憩前の慌てっぷりがウソのようよ」
『あれは……そう、魔族の毒にやられてまして!』
「そうです! 決して色々考えていたり熱でやられそうだったわけでは無く!」
「今は問題ありませんわ、ええ」
「そう、よかったわ。貴方達が無事で」
イリーネの言葉に三者三様の返事を返す。
(うー、いい笑顔してるんだろうなぁ、イリーネ。声だけじゃ満足できそうにない……! 通信魔法に映像を追加する術式ってあったかしら……)
(忘れろ忘れろ忘れろ! あれは一時の気の迷い! 団長の背中は追い抜く者であって、見て安堵するモノじゃないのよ、私!)
(あれだけのことあったのにこちらの心配ができるだなんて……健気ですわ、団長。貴方が困る顔を見てみたい……)
などと心の中でモヤモヤしながら、青螺旋騎士団は任務を再開する。
幸いにして魔族ヒデキの襲撃はなく、障害は毒霧により歪んで変化した魔族による小規模な襲撃がいくつかあっただけたった。
予想していたよりも多くの地域を浄化し、初日の作戦は終了した。
※ ※ ※
グテートスの町に戻ってきた青螺旋騎士団を迎えたのは、町の人達の歓声だった。
「流石ユニコーン騎士団だ! 昨日まで南側は何も見えなかったのに今はすっきりとしてる!」
「この調子で頑張ってください!」
「俺達に出来ることがあれば何でも言ってください!」
「魔族なんかやっつけてください!」
昨日まで魔族の脅威に晒され、絶望的な空気を纏っていた彼らは青螺旋騎士団の働きに希望を取り返す。毒霧が晴れたのは目に見えて明らかであり、それが魔族からの解放を示しているのだ。明るくならないわけがない。
明日は今日よりもっといい日になる。いつかは大陸中の毒霧全てを晴らし、魔族を駆逐してくれる。
そんな希望が街の人達の中にあった。
(……とはいえ、現実はそうもいかないんだよね……)
テオは街の人達に手を振りながら、今日起きたことを思い出していた。正確には魔族ヒデキの事を。
たった一人相手なのに、一瞬で封殺されたのだ。今回は奇跡と言うレベルで追い返しただけに過ぎないのだ。
作戦を続ければ、間違いなく障害となるであろうあの魔族。彼に対する対策を立てなければならない。
とはいえ、現状思いつく案は後ろ向きなものばかりだ。
(最も簡単なのは、カミル兄さんの言うように『魔族出現を理由に作戦を引き延ばす』事……確かにユニコーン騎士団全滅は避けないといけないからなぁ)
希望に満ちた町の人達を見ながら、テオは改めてユニコーンの重要性を認識する。
毒霧を浄化できる幻獣は、ユニコーンしかいない。白魔術士にも『浄化』の呪文はあるが、ユニコーンの浄化能力と比べると非常に精度が低いものだ。テオも『浄化』は使えるが、コップ一杯の水を浄化するのが手一杯。ユニコーンなら角に近づけるだけで済む。
毒霧浄化に必要不可欠なユニコーンを失うわけにはいかない。撤退もまた一つの戦略的判断なのだ。
(作戦続行をするなら、魔族にいかに会わないかを考えなくちゃいけない。だけど空間転移して現れる魔族にどうやって対抗するか……)
魔族を倒す、という案は現状テオの中になかった。あの魔族は簡単に倒せるものではない。今思いつくのは不意を突いて一撃で倒す程度。それだってどう不意を突くかというプランが思いつかない。
当たって砕けろ、で行動できるほどテオは強気な性格をしていない。しかし石橋を叩いて渡るような悠長な状況でもない。
(駄目だな。ボク一人じゃ結論は出ない。皆と相談しよう)
思考は煮詰まり、諦めたようにテオは小さく息を吐いた。




