テオとヒデキ
魔族の触手に絡み取られた青螺旋騎士団。
シャーロットもノエミも、そしてハンナも触手に動きを封じられ、拘束されていた。このまま魔族により捕らわれてしまうかと思いきや、ただ一人その拘束を逃れた者がいる。
そのテオが、果敢に槍を構えて魔族に向けていた。
「騎士長!?」
『イリーネ……無事だったのね!』
「流石団長ですわ。この奇妙な生体鞭の動きを避けただなんて……」
一人無事な団長の存在に希望を見る青螺旋騎士団員。その存在に魔族ヒデキも驚きを隠せなかった。
「ば、馬鹿な!? この僕の『完璧触手』から逃れた……だと! そんなことができるのは複数のLV3スキル持ちか、同じ転生者のチート能力を持つ存在だけなのに……!」
「その者たちを放しなさい。今なら見逃してあげましょう」
槍を向け、静かに告げるテオ。
一見相手の能力を凌駕して慈悲をかけている様に見えるが、真相はそうではない。
ヒデキの『完璧触手』はその言葉通り触手を自在に操り、『完璧な』仕事をさせる能力である。それは『敵を全滅させろ』と命じれば例え軍隊でも全滅させることができるし、『増え続けろ』と命じれば無限に分裂する。どんな命令でも『完璧に』こなす触手を使役する能力だ。
ヒデキの命令は『そこの女達を捕まえろ!』だった。そして触手はその命令に従い、女性を捕らえた。だがテオは女体化しているとはいえ、元は男性である。ユニコーンすら騙す呪いの霊薬だが、『完璧な』触手はそれを見抜いていた。そしてテオが男だとわかると、その命令範囲外と判断して拘束しなかったのだ。
そしてそれをテオが理解してやったのかと言うと……。
(よくわからないけど……助かったぁ……)
そんなわけはなかった。心の中で涙を流しながら、必死に槍を向け続けるテオ。
「そういえば、こいつはステータス確認してなかった……顔アイコンのないユニットだから雑魚だと思ってたけど……」
魔族ヒデキは慌ててテオを指さす。魔力がテオの肉体をサーチし、その情報を入手していく。ヒデキの頭の中に直接送り込まれるデータ。
(知性C+、魔力C、武勇D+……騎士団に居ること自体がおかしいぐらい低いステータス……だけど妙だよ、これ。表示が少しバグってる。名前も『テオフィル』っていう男のモノだし、性別表記は意味不明な記号になってるし……でも3サイズはH85W60H88のDカップだし状態も『処女』だし……スキルも一個表記が分からないのがあるし!)
(落ち着け……とにかく事実としてこいつは僕の『完璧触手』が効かない。ステータス的に負けるはずがないけど、その謎のスキルが怪しい。とにかくこいつはバグ的存在だ。この世界の『勇者』かもしれない。秘めた力を持つ相手に迂闊に手を出せばやられてしまう。そんな第一部の雑魚的存在は御免だねー!)
――実際の所は、魔族ヒデキが見ているのは『性転換の霊薬で呪われた』テオである。その為名前表記は『テオフィル・ゲブハルト』となり、性別も呪われているため不明。3サイズはそのまま体系をサーチし、処女も同じである。
そして彼が恐れる『表記不明のスキル』は何かというと、『性転換(呪い)』である。だが文字化けしているのか、ヒデキの頭の中には正確に伝わらなかったのだ。
つまり、ヒデキがテオを恐れるのはただの勘違い以外の何物でもない。
(どう言う理由かはわからないけど、あの魔族はボクを恐れている……)
(そしてそれは『良くわからない』者に対する恐怖だ)
手を出してこない魔族の顔を見つめ、テオはそんなことを推測していた。どういう理由かは不明だが、あの魔族はこちらへの攻撃を躊躇している。
それは『弱い』テオだからこそわかることだ。自分より強い者や、正体不明な者。そういった相手に抱く感情。それはテオにもよくわかっていた。
なぜなら、テオ自身がその経験をたくさん重ねているからだ。
圧倒的な才能を持つ姉。底の読めない兄。この二人の背中を見て、そして天才の壁に打ちのめされたテオだからこそ、魔族ヒデキの心は手に取るように分かる。
ならば――




