表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男だけど性転換してユニコーン騎士になっている件について  作者: どくどく
グテートス奪還 0日目 ~作戦前夜の姫騎士達
19/61

【選択肢3】 ノエミと同室

 優雅とは、優しくそして雅があることを指す。

 精錬された動作は、それだけで人を魅了する。その為の礼節、その為の動作。人はそこからその人の内面を感じ取り、心の壁を取り払う。

 例えばそれは髪の梳かし方。道具を手に取り、優しく髪を梳き、そして道具を戻す。

 例えばそれは服の脱ぎ方。ボタンに手をかけ、外し、そして水が流れるように服を脱ぎ、そして畳む。

 それは一つの『動作』でしかないのに、見る者に感嘆の声を上げさせる所作。

 ノエミの動きは、まさにそれだった。貴族階級の女性として、恥じることなき動作。


(……うーん、さすがベイロン家のご息女)


 一週間の付け焼刃のテオなど及ぶべくもない。ただただ感心するばかりである。


「ふふ。団長、どうなさいました?」

「ええ。つい見惚れてしまいましたわ」

「あらあら。それは嬉しいですわ」


 口元に手を当て、笑うノエミ。こういう所作一つをとっても、優雅と言わざるを得まい。

 当たり前だが、ここは貴族の世界ではない。優雅な部分を主張する意味は全くない。それはノエミとて分かっている。この部屋にはノエミと自分しかなく、意識して優雅に見せる必要は全くない。

 つまり、こういった動作が自然にできるということなのだ。幼き頃から身についた動作。もはや意識せずできる動き。


「まるでここが舞踏会のように思えてくるわ」

「――まあ、これは予想外」


 テオの素直な感想に、虚を突かれたようにノエミが口を開く。思いもしなかった言葉に、驚きの表情を浮かべていた。

 だが、テオからすれば冷や汗を流しそうな心境だった。


(しまった……かな? イリーネ姉さんが言いそうにない使いまわしだったかも)


 イリーネの性格は熟知しているつもりが、イリーネがノエミとどういう会話をしているかは手探りだ。かたや若くして騎士団長まで上り詰めたエリート。かたや大臣の娘。それなりに高級なやり取りを予想していたのだが。


「団長もそういう詩的な言い回しができるようになったのですね」

「詩的……かな?」

「ええ。失礼ながら、そんな褒め言葉を団長からいただくなど思いもしませんでした。その一言があれば、数多の軍勢を前にしても恐れずに進めるでしょう。

 嗚呼、楽団がいればここで高らかに演奏を鳴り響かせたいところです!」


 両手を広げ、踊るように回転するノエミ。やや芝居かかった動きで、喜びを表現していた。部屋がもう少し広ければ、そのままミュージカルが始まりそうな雰囲気だ。


「此度の戦いは、素晴らしいことになりそうですわ。そう、歴史に残る第一歩として」

「――――」


 戦い。その一言を聞いて、テオの動きは固まる。明日は戦場に立つのだ。それもユニコーン騎士団の団長として。

 一歩間違えれば死ぬかもしれない。その恐怖が今になって襲い掛かる。冷静になれ、と思っても汗は止まらない。シーツを強く握りしめ、激しく動く心臓に手を当てる。

 

「……団長?」

「大丈夫。すこし、気分が悪いだけですから」

「いけません! わずかな健康の乱れが万病のもとになるのです! 無理をなさらずにお眠りください!」

「ええ。ありが……とおお!?」


 言葉と共にノエミはテオをベットに押し倒す。真上から顔を覗き込まれるような体制。整った顔立ちと、真剣な瞳。それが少し顔をあげれば届く場所にあった。テオの心臓の鼓動が、大きく跳ね上がる。

 見つめあう二人。その瞳に思わず吸い込まれてしまいそうな錯覚。目を逸らすことなく、そのまま見つめ合い――


「……あの、そろそろ止めていただかないと……」

「え?」

「その、動揺した仔犬のようにじっと見つめられると……何か良くない衝動に目覚めてしまいそうで……」


 目線を逸らし、口ごもるノエミ。調子が狂うのか、動揺して顔を赤らめていた。湧き上がる衝動を、必死に理性で抑え込んでいる。予想だにしなかった反応に、テオは思わずずっと見ていた。

 ――結局、ノエミが根負けして自らのベットに戻るまで、この状態は続いたという。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ