【選択肢3】ノエミと一緒に武具の点検をする。
「まあまあ、騎士長! ご一緒して頂けるとは光栄ですわ」
「武具のチェックは重要ですから」
「ええ、勿論ですわ。それでは始めましょう」
とりあえずの置き場として今の一部に武具を纏めてある。さすがに二階の部屋にもって上がる気はない。鎧を着たままの階段移動をしたいと思うほど、疲れはとれていない。
そんなわけで点検と言ってもそれほどきちんとしたものではなく、破損やそうなりかけている個所を確認する程度になる――と、最初はテオも思っていた。
「ふふふふ……素晴らしい角度ですわ。この曲線で敵の爪をいなしたときは、体がしびれましたわ」
「……あの、ベイロン准騎士?」
「この硬い部分で棍棒を受け止めた時、体中を包む衝撃が……はっ! へこんでます! まさか四日前に受け止めた岩石の傷!」
「……えーと」
「この鎧の色合いを出すために磨かなくては! 先ずは布をお湯でほぐして!」
予想以上に、というか予想外にというか……ともあれヒートアップしているノエミ。それに押されるテオ。
「ああ、これがグラ帝暦四二〇年代の鍛冶職人が生み出した最高傑作……この滑らかな曲がりは芸術にして合理的。正に美の鎧……」
(貴族の子女はドレスにこだわると聞いていたけど……その流れなのかな?)
「聞いているのですか、騎士長!」
「へ? はいはい。ホルト親子が二代にわたって作り出したものでしたっけ?」
「それは肩当ての設計です! この盾をご覧ください!」
極端に縦長の盾。それは騎乗して、馬ごと身を守ることを目的にした物である。当然、馬に乗っていない状態では持つこともかなわない。敵に向ける面にはクスト教の神の一人、女神リーンの紋章が描かれていた。
この大陸にすむ人間なら誰もが知っているほど有名な女神で、司るのは豊潤と大地の恵み。通常、戦いに出る騎士は戦神グラストの聖印を入れる。だが、ノエミはあえてこの聖印を入れたという。
「魔族の毒に汚されたこの大地を取り戻すために、私は女神リーンの印を掲げて戦うのです! そう、この印は私がこの青螺旋騎士団であるという決意の証!」
「うん。立派な心掛けね」
「さらには司祭様に永続加護の効果を付与してもらいました。もはや敵なしです! 栄光の星は我らの元に!」
興奮したノエミはテオの肩を抱き、指を窓の外に向ける。空は魔族の毒霧で、星一つ見えないのだが。
だがそんなことはテオにとっては些細な事だった。肩を抱かれて引き寄せられて、ノエミの胸が体に当たっていた。その、なんというか、すごいのだ。弾力が。それを意識すれば心臓が跳ね上がり、顔が充血してくる。
「あら? どうされました騎士長? 顔が赤いですわよ」
「いえ、その、気にしないで……!」
「まさか疲れでよからぬ病気に! 今すぐ横になってください!」
「うひゃああああああ!」
肩を抱かれた状態から足に手を回されて、有無を言わさず抱きかかえられるテオ。
いや、本当に有無を言わせない力技だった。総重量三〇キロ程の装備を難なく着こなすノエミにとって、イリーネ(にみえるテオ)を抱えるのは造作もないことのようだ。
(これって『お姫様抱っこ』……いや、女性にされてるというのは少し屈辱だけど!)
この抱えられ方は相手の横顔が目に入ってしまう。透き通るようなノエミの瞳。形の整った花。そして薄紅の唇。凛々しく、そして美しい横顔。それに思わず見惚れてしまう。その顔がこちらを向き、優しくほほ笑んだ。
「安心してください、騎士長。このベイロン准騎士、夜通し看病しますので!」
「いやだから本当に何でもないから降ろして! この格好恥ずかしいからー!」
騒ぎはご飯ができるまでずっと続いた。




