表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男だけど性転換してユニコーン騎士になっている件について  作者: どくどく
グテートス奪還 0日目 ~作戦前夜の姫騎士達
12/61

【選択肢2】シャーロットと一緒にユニコーンのブラッシングをする。

「私も『アイン』のブラッシングをしてきます」

「……え? 騎士長も?」


 テオの言葉に怪訝な顔で問い返すシャーロット。何かまずいことを言ったか、とテオは先の発言を思いなおす。問題はない。問題はないよね。心の中で冷や汗を流しながら、何度も確認する。


「何か問題でも?」

「……いえ、問題は、ないです」


 絞り出すように答えるシャーロット。なにか言い訳を考えようとして、何も思いつかなかった。そんな硬い口調だ。視線が微妙に泳いでいる。あまり好意的な感情は抱いていないようだ。


(姉さん、実は嫌われてた?)


 可能性はなくもなかった。思えばシャーロットのことは書類でしか知らない。テオが顔を合わせるのはこれが初めてだ。イリーネとシャーロットの間に何かの確執があっても不思議ではない。

 だがそれを問いただす雰囲気ではなかった。テオは今イリーネになっている。そんな状態でイリーネと何があったかを問えば、その内容によっては相手を激高させる可能性もある。長い付き合いになるのだ。関係悪化は望ましくない。

 テオとシャーロットは互いにぎくしゃくしたまま、馬小屋に向かった。


「『アイン』疲れたでしょう? 奇麗にしてあげるからね」

「…………」


 ユニコーンに語り掛けながらブラッシングするテオ。貴族のたしなみで馬の世話は一通り覚えている。優しく話しかけ、毛並みをそろえる。ブラッシングによりマッサージを行い血行を良くする。そうすることで主と馬の関係が深く結ばれるのだ。

 対し、無言で馬にブラッシングをするシャーロット。手つき自体は慣れているが、馬に話しかけようとはしない。口を一文字に結び、黙々と手を動かしている。


「かゆいのはここ? そう。いつもありがとう。明日からよろしくね」

「…………」


 テオからすればこのユニコーンは初めて乗る幻獣だ。だがユニコーンはテオを――正確にはイリーネを信用している。最初はブラッシングの違いで戸惑っていたが、すぐに慣れたと力を抜く。姉弟一緒に馬の世話を学んだのだから、違和感こそあれど手法が同じなのは当然か。


「じゃあ水を汲んでくるわ。ナイゼル准騎士はどうします?」

「私は……もう少しここで……」


 目線を合わせることなく、シャーロットは答える。そう、と答えて桶を持ち井戸の方に向かうテオ。


(嫌われてるのかなぁ……?)


 そんなことを思いながら水を汲み、馬小屋に向かう。そんなテオの耳に歌声が聞こえてきた。

 何事? と思い音源を探れば、それは馬小屋から。音源はシャーロットの口だった。


「『ツヴァイ』~♪ 『ツヴァイ』~♪ 地を駆ける蒼穹♪」


 先ほどのだんまりはどこに行ったのか。シャーロットは楽しそうに歌いながら、そのリズムに合わせてブラッシングをしていた。え、なにあれ?


「聞いてよ『ツヴァイ』。今回は久しぶりに全員そろっての任務なの」


 まるで友人に語り掛けるようにシャーロットは口を開く。ユニコーンはその稀少性もあり、単独で解決できる状況なら可能な限り分散して任務を行う。その為、全員がそろうケースはそう多くない。


「そうよね、知ってるわよね。でも私皆と一緒に居られるのがすごく嬉しいの。他の騎士と合同で任務に映ることもあるけど、女性の騎士は少ないから」

「確かにノエミは上から目線だし、レーナルト副団長は厳しいけど、それでも『仲間』を感じるの。嫌いじゃないのよ。だけど、その」


 そんなシャーロットの言葉を黙って聞いているユニコーン。ある種の信頼関係がそこにあった。……はたから見ればただ愚痴っているだけなのだが。

 それを隠れて聞いているテオは、何かいたたまれない気持ちになる。黙って聞くのが犯罪のような、そんな気持ちに。ここで名乗り出る勇気はない。桶を担ぎ、井戸に戻った。もう少し時間を潰してこよう。


「騎士長? 騎士長は……その……嫌いじゃないけど……」

「ずっと背中を追ってきて……今日も後ろ姿がきれいだなって……一緒にブラッシングして、話しかけたかったけど……遠い存在というか……」

「ち、違うわよ! 騎士長はライバル! 絶対に負けないんだから! いつか追い抜いてやる!」


 一人顔を赤らめて叫ぶシャーロット。そんな様子に、ため息をつくようなしぐさをするユニコーン三騎。


『騎士長はライバル! 絶対に負けないんだから!』

(うーん……やっぱり嫌われているのかなぁ?)

 馬小屋から聞こえる声にどうしたものかと思案するテオであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ