星空の下で。
初めて海を見たのは、私がまだ十歳の時であった。父が決めた婚約者が住んでいるのが海街だったためだ。行きの馬車の窓から盗み見た海は絵で見るよりも殺風景で、それでいてとても輝いて見えたのを今でも憶えている。
輝いていて、眩しくて、流れてくる潮を含んでいた風が木の葉を揺らし、見知らぬ誰かと結婚しなければならないと沈んでいた私の心は一気に上昇した。だって初めて見た海が、あまりにも綺麗だったから。
誰かと結婚するのは嫌だけど、こんな海を毎日眺められるのならば、そんなに悪くはないのかもしれない。
幼い頃の私は、そんな風に人生の伴侶を決めてしまっていた。あくまでも婚約というだけであって、本当に結婚するのかは未来の話なのにも関わらず、だ。
私は、あの綺麗な海目当てでまだ見ぬ婚約者へと思いを馳せた。ここでもっと、色んな綺麗を見つけたいと目を輝かせながら。
そして______出会った。出会ってしまったのだ。
それは夜、寝付けない意識を弄んでいた時のことだった。海の方から聞こえる声に気づき、サンダルをひっつかんで外へと忍び出た私は、小走りになりながら声のする方へと駆けた。近づくにつれ、その声が唄であることに気付いた。
砂に足がもつれ何度も転びそうになったが、ようやくたどり着いた先にあったソレに、全てがどうでも良くなった。
いや、“ソレ”と無機質に言い表すのも失礼だ。そんな簡単に、一言に留めて良い物じゃあない。
「きれ、い・・・」
それは、無意識に出た言葉だった。
その日は新月で、尚且つ人工的な光が無かったからなのかもしれない。満点の星空だった。
水面に反射するか細い光と、真上に広がる数え切れない程の星々。そして___。
きちんとその姿を瞳に捕らえたと同時に、私は息が詰まるような思いがした。胸が苦しい。全身の体温が上がって、まるで熱湯の中に入れられた様な気分だ。
海から頭を出すゴツゴツとした岩。その上に腰掛ける、幼い少女。恐らく私とはそう変わらない年齢だ。薄暗くて確かではないが、腰まで延びるその髪は、うっすらと蒼みを帯びている。それはとても深い色合いで、深海を私に連想させた。
それだけでは、ない。髪の、その先。真珠の様なその柔肌とそれの境目。
緑に輝く、その“鱗”___。
「人魚、だ・・・」
御伽噺の中だけだと思っていた。誰かの想像であり創造で、決して存在しないモノなのだと。けど、違った。それは違ったのだ。
想像でも創造でもなかった。彼女は、彼等はちゃんと存在していたのだ。
これは決して夢などではない。私は今目で見て肌で感じて、この耳を持ってして彼女の唄を聞いている___!
あぁ、なんて甘美な声なのだろう。なんて美しい姿なのだろう。
朝に見た海とは全く別の次元だ。彼女がこの場にいるだけでこうも違うというのか。
「すごい・・・。すごい、すごい、すごい!」
私は魅せられた様に、海の中へと進んだ。いや、実際魅せられていたのだろう。
ひんやりとした海水は足を濡らし、火照った身体を少しずつ冷やしていく。サンダルと足の隙間に砂が入り痛みを感じたが、彼女に近付いているという高揚感が、それを無いものとした。
聞こえるのは海のさざ波と、彼女の唄声だけ。だからか彼女は私に気づかない。
しかしあと三メートルのところで、私は足を止めた。ある疑問が、私の足を止めたのだ。
____彼女に近づいて、どうするの?
近づいたら、きっと彼女は驚いてしまう。驚いたら逃げてしまうかもしれない。それは嫌だ。それなら少しでも、彼女の姿をこの目に焼き付けておきたかった。
それならきっと、罪ではない。
彼女に触れることは、罪なのだ。彼女は至高の存在。人ならざる者。そんな存在に、私が踏み込んで良いはずがない。汚して良いはずがない。
だから、目に留めるだけなのだ。
「っ人・・・?!」
けれどやはりと言うか、当たり前に私は彼女に見つかってしまった。
彼女の瞳は私が案外近くにいた為か、驚きで見開かれていた。その瞳は夜目でも解かる程に煌めいていて。
思わずそれに、手を伸ばしてしまった。
「ぁ___ぃやっ!」
「あっ、待って!」
彼女の悲鳴にも似たその声と、水しぶきが鳴った音は、ほぼ同時だった。
「____私、あなたとお友達になりたいの!明日、また同じ頃に待ってるから!」
私は彼女が泳いで行った方向に向かって叫んだ。先程まで考えていた事なんて、その時は頭からすっかりと抜け落ちていた。
どうしても彼女に触れたかった。触れて、あの大きな瞳に映るモノを自分だけに留めたかった。
あの時、不用意に手を伸ばすべきではなかったと反省しても___その想いだけは、無かったことには出来なかった。
次の日、彼女は姿を現さなかった。
その次の日も。
そのまた次の日も。
ここには五泊六日の予定で来た。だから彼女が今日来なければ、もう会える機会は二度とないかもしれない。
この海には年に数度訪れることになるだろうが、それは毎に一週間程度の短い期間。その間に、彼女と再会できる確率は___低い。
「今日は来ると良いな・・」
「何が?」
ベランダへ出て海を眺めていたら、父と話していたはずの婚約者___レオンが隣に並んだ。先ほどの問いは、私の独り言への物だろう。気付かなかった振りをして海に目を向けていると、再度「何が」と言ってきた。仕方なく横に目線を移すと、澄んだ青色の瞳と交差した。改めて思うけど、彼も彼で、綺麗な顔立ちをしている。
青は私の好きな色。だから海もレオンの瞳も好き。空も星も好き。自分の髪も、彼女ほどではないけど綺麗だと思うから好き。
この街には、私の“好き”が詰まってる。
「・・・綺麗な魚がいたの」
「魚?」
「そう。緑色の鱗が、暗い中でも分かるくらいキラキラしてて。でも怯えさせちゃったみたいで、会いに行ってもいないの・・・私のせいで、来なくなっちゃった」
言葉にすると、罪悪感と寂しさが一緒くたに襲いかかってきて、なんだか泣きたくなってしまった。
レオンは「ふーん」とだけ呟いて、それから使用人が呼びに来るまで、一言も話さなかった。話さなかったけど、ずっと隣にいてくれたことがまるで慰めてくれているようで。何となく、嬉しかった。
屋敷から灯火が消えると同時に、私は重い足を引きずって浜辺へ向かった。いつもとは違い、サンダルは履かずにゆっくりと砂浜を裸足で歩く。つま先が砂にうもれて自然と足取りは遅い。
「はぁ・・・」
ため息は朝から留まることを知らず、必死に動かしていた足は止まってしまった。
「もう、帰ろうかな」
どうせ来ない。そもそも、あの言葉が聞こえていなかったという可能性もあった。その考えを考慮していなかったのが悪い。でも、あと、少しだけ・・・。
「___あのっ!」
不意に聞こえた、澄んだ声。ドクドクと鳴り響き始めた心臓を押さえながらゆっくりと海の方向に目を向ける。そこには、風に靡く青があった。
「あの、ずっと来てたけど、声、かけられなくて、関わっちゃいけないって、言われてて」
必死に言葉を紡ごうとする彼女の頬はほんのりと赤く色付いている。うつむきながら指先を忙しなく動かす様は、なんともいじらしい。
「でも、その、貴女、一人でずっと来てくれて、嬉しくて、だから、えっと」
途切れ途切れの言葉は要領を得ないけど、目の前に彼女がいるという事実が、何よりも嬉しかった。
「____お、おおおお友達、に、なってくれませんか・・・?」
彼女の瞳が、私だけに向いている。私だけを見てくれている。
それだけで。たったそれだけの事で、今まで悩んでいたことがどうでもよくなってしまった。
「とも、だち・・・」
「い、嫌だった・・・?」
「そうじゃなくて、えっと・・・。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げれば、彼女も慌てたように「こ、こちらこそ!」と頭を下げた。頭を上げてしばらく見つめ合うと、どちらからともなく笑いあった。
くすくすと笑う彼女はとても綺麗で、可愛くて。数日前に見たときの魅了さはなかったけれど、話す内に、ただ単純に彼女と友達になれて良かったと思うようになった。だからこそ、これからしばらく会えなくなることが辛かった。
彼女___アイラは笑って許してくれた。寂しくなるけど、私がいつ来ても良いように毎日此処へ訪れると、そう言って。「さよなら」じゃなくて「またね」だねと笑って、私たちは別れを惜しんだ。
また会えると、疑いもしなかった。
その日は唐突に訪れた。
「____会えないって、どういうこと?」
アイラと出会い、三年の月日がった。いつもの様に浜辺に赴き、教えてもらった歌を口ずさみながらアイラが来るのを待っていると、そこへ歩んできたのは彼女ではなくレオンだった。
「一ヶ月ほど前、人魚により三隻の船が沈んだ。被害の拡大を無くすため討伐命令が出て、多くの人魚が拘束された」
頭が混乱して、彼が話している内容が入ってこない。そもそも、どうしてレオンが彼女のことを知ってるの?
「あ、い___アイラは?!緑の、鱗が綺麗な!」
「そこまでは知らない。僕は船に同行してたわけじゃないから。けど、お互いがお互いの敵だ。どちらにしろもう一度会える確率は限りなく低い」
「そんな・・・」
崩れ落ちた私は、レオンに支えてもらいながら屋敷へと戻ったそうだ。その時のことはあまり覚えていないけれど、どうしようもない喪失感に苛まれたことは覚えている。心に大きな穴がポッカリと空いたようで、埋めようにも埋められない。今までどう生活していたかも、忘れてしまったようだった。
それから部屋に引きこもる生活を続ける私に、レオンはずっと付き合ってくれた。何も言わず、三年前のあの時のように。ただただずっと、隣にいてくれた。
なんとかレオンのおかげで立ち直れた私は、花嫁修業として王宮に入った。侍女としての生活は忙しくも充実しており、心に負った傷はゆっくりでありながら癒えていった。幼い頃よりも、何かに執着することもなくなった。
そんな日々を過ごして数年の月日が経ち____私は、“私たち”は五年ぶりの再会を果たした。
◆◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆
いつもと同じ時間に起き、朝食を食べ、与えられた仕事をし。ただ一つ、いつも通りでない事といえば侍女長から呼び出しをくらった程度で。最初は何か叱られるようなことをしたかとビクビクしていたのだが、執務室へと行ってみればそれは杞憂であったことを思い知らされた。
入室後すぐに手渡されたのは、王からの指令。それは王子様の婚約者兼恩人である少女の侍女に就けという物だった。
本来なら王子には幼少期からの婚約者がいるはずなのだが、件の令嬢が陰湿なイジメを少女に行ったということでその任を解かれたのは、ここ最近で一番の出来事だった。そして、その婚約者の後釜に据えられたのが海に流された王子を助けたという少女。何かの病気で話すことができないが、傾国物の美貌の持ち主だとか。
そんな今話題の中心人物の侍女など、どうして私にそんな役目が回ってきたのだろうか。同期の友人と愚痴混じりの会話をすれば、返ってくるのは「気の毒ね」や「まぁ、頑張りなさい」といった、どう考えてもこの役目が“ハズレ”感あふれるものだという返答だけだった。
朝、そう早くもない時間帯にこれから仕える少女の部屋の扉をノックした。当たり前に返事はない。代わりに聞こえてきたのは、涼やかな鈴の音だった。侍女長からはあらかじめ、音の回数の意味を聞いている。二回が入室許可、三回が拒否といった具合に。
今回は二回だったため、私は緊張し強張る体を奮い立たせ扉を開いた。
窓辺には、“風に靡く青”があった。
「___っ!」
緑色に輝く鱗はなかったけれど、それはどう見ても、あの時理不尽な別れをした彼女だった。
『久しぶり』
彼女は持っていた紙に、そう書いた。
『五年ぶり、くらいかな。驚いた?』
おどけた様に笑う彼女は、最後に会った日よりも大人びていて。
急激に襲ってきた寂しさと驚きで口をパクパクさせていると、彼女は泣いているのか笑っているのか解らない顔で私に近づいた。そしてそのままゆっくりと、腕を私に回した。
「アイ・・・ラ・・・」
「・・・」
名前を呼んでも、当たり前にあの綺麗な声は返ってこない。その代わりに、私を抱きしめる力は強くなった。視界に映る青が歪んで、口から自然に嗚咽が漏れた。
「ぁ、い、ら・・・ぅっ、なんで、ど、して・・・」
責めるような言葉が出ても、彼女はその腕を緩めようとは、決してしなかった。
「急に、いなくなったくせに・・・何、王子の婚約者なんて、やってるのよぉ・・・。私の心配、返しなさぃ・・・」
顔を上げて眉を下げるその顔は、「ごめん」言っているように見えた。そして、彼女は三文字の言葉を紡いだ。一度目は何を言っているのか分からなかった。二度目は、聴き慣れている発音のように思えた。四度目で、やっと理解して。
そこで改めて、彼女が話せないことを認識した。声が出ないから、話せない。声が出ないから___唄えない。
もう二度と、彼女の歌声は聴けないのだ。もう二度と、彼女が私の名を紡ぐことは出来ないのだ。
「もぅ、訳わかんない・・・。人になってるし、話せなくなってるしぃ・・・」
『事情が有って、こうするしかなかったの』
「事情・・・?」
『シオン。
あなたにだけは教えてあげる。あの悪夢の日のことを』
私が海街に訪れる、一か月前。アイラは住処から抜け出し私との待ち合わせ場所に向かう途中、三隻の船と遭遇したらしい。大きな船だったけれど甲板には誰もいなく、駄目だと思いながらも興味本位で少し遠くから船を眺めていた。しかしそこで、誰も来ないと思っていた甲板に人が出てきたのだ。目があったのは一瞬だけで、すぐ海に潜ったらしいけれど、甲板に出てきた少年はずっとアイラの方を見ていたらしい。動くに動けなくてしばらくその場に留まっていると、海の様子がいつもと違うことに気づいた。波が荒いのだ。アイラはすぐに嵐が近づいているのだと気づいたけれど、船にそれを伝える術はなかった。だから仕方なく、歌で海を少しでも沈めようとした。
彼女は優しいから、知らないふりをすると言う選択肢は甚だなかった。しかしそれが、仇となってしまったのだ。
嵐は彼女が思ったよりも大きなもので、まだ人魚として未熟な彼女には到底太刀打ちできるものではなかった。船は流され大きな岩へと衝突し、多くの人が海へと投げ出された。それでも助けようと奮闘し、結果この国の王子を助ける事となったのだ。しかし運悪く顔を見られてしまい、彼の意識が覚醒する前に住処に戻れば____一連の事件の主犯は、人魚ということになっていた。そのせいで多くの人魚が無実の罪で捕らえられた。それでもまわりの人魚は、アイラに責任を問うことはしなかったらしい。それが彼女の罪悪感に、拍車をかけた。
『私は人魚討伐を止めるために、人になる事を選んだの。海にはタコの魔女がいてね?
私に人になれる薬をくれた。その代償が、これ』
トントンと、アイラは自分の喉を人差し指で指した。
『運良く王子様は私のことを覚えていてくれて、告白までされちゃった。
だからその申し出を受ける代わりに、人魚を傷つけることをやめるようお願いしたの。
彼、言っていたわ。
“そんな事で結婚してくれるなら、今すぐにでも止めさせてやる”だって』
紙に書かれるアイラの筆跡は、書き綴られる度に崩れていった。
『そんな事って、言ったのよ』
今度は、彼女が泣く番だった。
嗚咽を押し殺すように泣くアイラの肩は震え、華奢な体をより一層小さく見せた。
その夜、私たちは思い出の浜辺へと訪れた。もちろん城を抜け出して、だ。
装飾品を全て脱ぎ捨て、動きやすい格好をした彼女は、城にいるときよりも彼女“らしく”見える。
「新月は終わっちゃったけど、晴れて良かったね」
私の肩に頭を預けていたアイラは、小さく頷いてから、そっと空に手を伸ばした。
あの時と同じ、何も変わらない、変わることのない夜空。彼女には一体、その空はどのように見えているのだろう。
釣られるように私も上を見上げた。視界に映るのはか細く、しかし力強く輝き続けている星たちだけ。ずっと見続けていると、まるで夜空に吸い込まれるかのような感覚に陥った。
自分が、ちっぽけな人間のように思えた。空はこんなにも広くて大きくて、世界も空の分だけ広がっている。色々な人がいて、文化があって、思いがある。
こんなちっぽけの自分は、そんな中でどう生きていけばいいのだろうか。色んなものに埋もれ流され、いつしか自分を見失わないで生きていけるだろうか。何よりも、彼女を____守りきっていくことが、出来るだろうか。
「___~~~~~♪」
せめてもの足掻きだった。自分はここにちゃんといて、その隣には彼女がいたと証明する為に、私は彼女の歌を口ずさんだ。この世界でただ一つの歌。私たちだけが知る、アイラの歌。
◆◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆
「人魚に戻ることは出来るの?」
その問いかけに、目を腫らしたアイラは淡々と文章を書いた。
『私がナイフで王子様を刺せば、私は泡になり人魚に戻れる』
____私が望む唯一の方法は、どうしようもなく理不尽だった。
誰かじゃない、自分でやらなければ解けることのない“呪い”。
アイラは優しい。優しいから、何もできないのだ。もし相手が親の敵で、二人きりの状況で尚且つ自分だけが武器を持っていたとしても。
彼女は何もしない。話を聞いて、相手を慰めて、そして最後には許すのだ。
それで悲しみが無くなるわけじゃない。消え去るわけじゃない。失った物は戻らない。
それでも、決して相手を傷つけようとしない。それは優しさか、それとも臆病さか。
どちらともなのだろう。傷つけたくなくて、傷つけてしまうことが怖くて。自分が傷つくことで、相手への負の感情を無かったことにする。
とても不器用で、もどかしい。
彼女はこれから、死ぬまで一生、そんな事をしながら生きていくんだ。
例え、その道の行き着く先が破滅であろうとも。立ち止まりもしないし、俯くこともしない。私にはそれが少し、怖く思う。私には到底できないことだから。
『私は、守りたいの。私を取り巻く全てを。
知ってる?海の底には色んな魚が居るの。珊瑚とかもあって、春先は特に水が澄んでて。
自然がいっぱいで、それがこの先ずっと続けば良いと思うんだ。後世に繋げたいの、この思いを。
私は、そう思わせてくれたあの海が好き。海を育てたこの国が好き。この国を支えている人たちが好き。そんな人たちが作り語り継いできた文化が好き。
全部全部、大好きなの。
だから、自分が傷ついても構わない。
私はもう、守られたくないの。今度は私が、守る番』
五年。それは私たちが離れていた時間。
その時間は短いようで長く、彼女を変えさせるには十分だった。
アイラは守られることを拒んだ。だから私は、彼女に何もできない。その選択が正しかったのかは、今でも分からないけれど。
____嗚呼、神様。
もし存在しているのならば、聴いてください。
どうか、彼女がこれからの人生で“幸せ”を見つけられますように。
この想いが、彼女に届きますように。
私は希いながら、星空の下で唄を歌う___。