第一話 friend
この世界には受納性保持容量多者と呼ばれる人間が存在する。
一昔前は解離性同一性障害、つまり多重人格という精神疾患として認知されていた。
けれど、もう一人の人格である―この場合以下フレンドとする―は主人格とは全く別の存在であると発見した医者がいた。
その医者は多重人格者の副人格たちにはそれぞれ役割があり、それが人類には不可能なレベルにまで達している事に気が付いたのだ。
そして「賢さ」の役割を持っていた副人格の助言を受け副人格たちを他人にも見ることが出来る。つまり実体化させる機械を開発し、副人格たちの姿を見ることが出来た。
初めて主人格以外の人間に視認された副人格の名前は「緑王」と言って見上げる程の大木だったと言う。
その「緑王」は「賢さ」の役割を持っており、医者に自分の主人格と同じ様な人間の存在をどうするべきかを医者に助言した。
その後、医者の作った機械「visual」通称「V」を量産し、解離性同一性障害と診断されていた患者たちの殆どが受納性保持容量多者と名前を変えられその役割に見合った場所に優遇される事となった。
精神疾患から世界のエリートと変わった彼らであると認識されるにはいくつか条件がある。
その一。フレンドと呼ばれる自分以外の人格をその体に受け入れて共存できている。
その二。フレンドに名前を付けている。
その三。役割を自覚している。
その四。自分の体の主導権を握っている。
フレンドはいくつかの宗教団体が神として崇めている存在でもある。
神と言われるだけの能力もある上に、精神力も高い。
それを受け入れることが出来、名前を付ける。つまり自分の所有物として立場が確立していなければ受納性保持容量多者―以下、多者と呼ぶ―として認められない。
遥か昔、医者の一人が言った。
「複数の人格を保てるのではなく、一つの人格すら保てないのだ」
そうあってはいけない。多者は精神疾患ではなく選ばれた人間なのだから。
故に、フレンドに身体を明け渡していたりフレンドよりも立場が弱かったり役割を自覚せずに自分を保てなかったりすると多者ではなく喪者と呼ばれる。自分が受け入れる、共存できる。支配できる状態でなければ喪う者。と呼ばれるのだ。
そうなった場合喪者はすぐさま隔離される。
選ばれた人間でい続ける為には強靭な精神力が必要なのだ。
多者と喪者を総称してフレンド持ちと言うが、フレンドと真に共存できている者は少ないのだ。
喪者の中にも共存できているものはいる。
フレンドに自分の体を明け渡して自分を守っている状態を遊戯部屋入り。と言うが、その状態を使いこなせる事こそが真の受納性保持容量多者と言えるだろう。
遊戯部屋はそのフレンドごとに違い、フレンド持ちがそこで自分の役割を自覚する事も多い。
複数のフレンドを受け入れている者も少なくはない。寧ろ多い方だと言えるだろう。
そして、フレンドにも種類がある。
一つは隣人型。気が付いたらそこにいて、多者と実の家族の様に、何でも分かち合う友人の様にいる場合。
隣人型の場合多くの人間が幼少期のみにフレンドを作り出す事があるので、フレンドが自然消滅しやすいタイプであると言えよう。
けれど、お互いの事を深く知り合っていてより親密なものが多い。
もう一つは尋ね人型。ある日突然多者を尋ねて来て多者に名前を強請りそのまま多者に寄生する場合。
尋ね人型はある日突然現れるから回避不可能であり、フレンドが多者に攻撃的な場合も多い。
けれど多者の精神面が飛躍的に成長とする試練を課してくる場合があり、それに乗り越えられれば役割を上手く自覚できる場合がある。
役割を自覚する事で、選ばれた人間である多者はより多くの能力を有することが出来る。
以上がフレンド持ちに対する説明である。
僕はある日突然フレンド持ちになった。
祖母の家の近くの畑でカカシと出会ったのだ。
幼い僕は喋るカカシに怯える事なく、むしろ好奇心を強く刺激されてカカシと話をし、簡単にカカシに名前を付けるに至った。
それが、悪い事だとは思わない。
僕だってカカシが、クロウリーがいるからこそ多者としてエリートの称号を得ているのだから。
お蔭で僕の人生はスムーズに進むだろう。
けれど、クロウリーの独特な笑い声に四六時中晒されながら僕を自分好みに作り変えようとしているその不気味な笑顔に。
僕は少し不安に思う。
僕は、カカシに魅入られ、カカシに誘われ、カカシに弄ばれる運命なんだろう。
それは、結構怖いな。
でも、それ以上に、
「イィイトォオ。オレの可愛い可愛いイート。そんなクソつまんねぇパンフレット何の役に立つ?俺様に聞いてくれればスムーズにいくぜ?」
「んーでも、機関の人にちゃんと読めって言われたよ?」
「俺は暇だ。暇過ぎて死ぬ」
「退屈に強いって前言ってたのに」
「イートが構ってくれない暇は何者でも埋められない」
一本足の、継ぎ接ぎだらけのスーツを着た僕のカカシ。
長めの髪をぼさぼさにして、口にはギザギザと赤い糸が縫い付けられている。
手に持つステッキはクロウリーの都合で好き勝手に変わる。
真っ黒い手袋を着けた手はこれまた真っ黒なカラスの羽を持っている。
僕のクロウリーは、僕だけのもの。
クロウリーがいるから、僕は永遠に一人にはならない。
カカシと出会ってしまった僕は、クロウリーなしではもう生きていけない。
僕はクロウリーの良い様にされて、玩具にされて、都合の良い存在にされる。
でも、それで良いのかもしれない。
喪者と呼ばれる存在になって、一生を遊戯部屋で過ごすのもきっと楽しそうだ。
そこに、クロウリーがいるのなら。
「クロウリー」
「なんだ?イート」
「ずっと、僕と一緒にいてね?」
「ああ。もちろんだ。俺の可愛いイート」
僕の頬をクロウリーの両手が包み込んで上を向かされる。
ベロリと眼球を舐められる感覚に逃げ出したくなるけれど、僕の手はクロウリーのスーツを掴んでいる。
「それで良い。俺だけ見てろ。お前は俺のものだ。イート」
その言葉にどうしようもない幸福感を覚えている僕は、本当にどうしようもないぐらい、クロウリーに依存している。
ふと思いついた事を頑張って設定を考えて書いてみたのですが、設定って結構考えるの難しいですね。
自分で考えた設定を踏まえて、ちょっとした頭脳戦みたいな話が書けたらなって思っています。
バトルシーンも上手く書けたらなって思いますけど、そこまでバトルはないかもしれません。