9話
「見つけた」
私はゾッとした。とても低くて響く声に、そして聞いたことのあるようなその声に。顔を直視することはできない。私が怖くて目をぎゅっとつむった時だった。
「ミチカ、やっと見つけた。心配したんだぞ」
恐る恐る声の主を見る。そこにいたのは、私がよく知っている、忘れられない人。
「お父さん......?」
「ミチカ! よかった、無事で。よかった」
お父さんは力一杯私を抱きしめた。私は動揺を隠せないでいた。どうやって見つけ出したのか、私の肉親が目の前にいる。思った。気づかれてしまった。これでもう、祐一さんとは一緒にいられない。別れが突然やって来た。私は思い切りお父さんを突き放す。とても驚いていた。そりゃあそうだ。人質にされたはずの娘が怖がっていた様子もなく、しかも自分を突き放したのだ。普通なら、助けをこうはず。私のなかでは、普通が普通ではなくなっていた。彼は私に問う。
「なぜだね。もう人質から解放される。なのになぜ」
「ごめんなさい。私は今、ここから離れられない。そ
れに、犯人に見つかってしまう。だから、私はいい
からお父さんだけでも逃げて」
私は嘘をついた。最初のことは事実だが、最後は心にもないことをいった。当然のこと驚いている。私はうつむく。本当のことを言えるわけがない。犯人に恋して、一緒にいたいなどとは。と、人の気配がした。私は慌てた。祐一さんが来てしまう。そしたら、お父さんにばれてしまう、そう思ったから。だから私がとった行動は一つ。
「お父さん、人が来る。早く逃げて! どうせ私が今
逃げたってすぐに追い付かれる。お願い......」
お父さんは、必ず助ける、と言って出ていった。私の気持ちが伝わったらしい。あれは、演技などではなかった。それでも伝わったのは私の、祐一さんに対する気持ちがそれほどまでに強かったからだろう。私は安心して一息つく。それと同時に地面にしゃがみこむ。そして鈍い痛みに襲われた。以前とは比べものにならないくらいの凄まじい痛みだった。私の意識はそこで途切れた。