8話
私は祐一さんから離れることをためらった。離せば、そのままどこかへ行ってしまうような気がした。そんなことを考え、抱きしめる腕の力を強くすると、彼も同じようにしてきた。私は彼から離れることはできないと、そう思った。しかし、彼と一緒にいられるのもあとわずか。離れなくてはいけないときが来る。私は一生、このままでいたいと心のなかで願った。
「大丈夫、まだ一緒にいる。それに......」
そこで彼の言葉は止まった。と同時に顔が真っ赤になっていた。私はそれを見て、顔が熱くなっていることに気づいた。祐一さんは深呼吸し、私をじっと見つめた。そして、さっきの言葉の続きを紡いだ。
「もし、待っててくれるなら、俺は迎えにいく」
「......うん、待ってる。いつまでも待つよ」
私は彼にできる精一杯の返事をした。彼は頬を赤く染め、微笑む。私は思った。この人といつまでも一緒にいたい。時間が許す限りー
その日はずっと話していた。お互いのこと、これからのことを。そして、私たちはそれぞれの寝床へついた。それからしばらくたった頃だった。私は苦しさのあまり、目が覚めた。特に何をしていたでもなかったのだが、動悸と息切れがひどい。そして鈍い痛みが私を襲った。私は叫びそうになるのを必死でこらえる。以前もあったこの痛み。特に持病はなく、健康診断でも問題が見つかったことはない。そして、家族もみんな健康だった。私は、ただの緊張か何かだろうと、思っていた。この痛みを甘く見ていたのだ。少しして、その症状は治まり、再び眠りについた。
「ま、まぶしい」
私は、まぶしさで目覚めた。唯一のドアから朝日が差し込んでいる。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるような感じだった。すると光が差し込まなくなった。それと同時に勢いよくドアが開いた。
「祐一さん?」
逆光で姿がよく見えなかった。が、なにやら様子がおかしいと思った。いつもの彼なら挨拶をしてくれる。なのにそこにいる人は黙ったまま、何も言わない上にじっとこちらを見ている。怖かったが、勇気を出して尋ねる。
「あの、あなたは誰ですか?」
しかし、何も言わない。仕方なく、近寄ってみることにした。すぐそばまで来たときだった。私は腕を強くつかまれた。そしてその人は呟いた。
「見つけた......」