5話
「あの、祐一さん、何かお手伝いできることあります
か?」
「ああ、じゃあ、その壺をこっちに運んでくれ」
昨日、語り合ったからなのかわからないが、強盗の祐一さんは私に優しくなった。いや、もともと優しい人なのだが......祐一さんは自首しようとしているが、漬け物のことが心配でならないらしい。強盗は、10年くらいの懲役だろうか。漬け物ならそれくらい大丈夫だろうが、やっぱり心配らしい。そこで私は思いついたのだった。
「あの、祐一さんは自首するつもりなんですよね?」
「ああ」
「良ければ私が漬け物を見ましょうか?」
彼は私の言葉に目を白黒させていた。自分でもそんなこと考えるなんて、と思った。
「それはどういう......」
「私が漬け物作りをします」
彼は真剣な顔で私をじっと見つめた。私も彼を見つめ返した。と、彼はふう、と息を吐いた。
「本気の目だな。でも、どうして」
「私、祐一さんの漬け物が好きなんです。だから、祐
一さんが戻ってくるまで私、待ちます」
すると、彼は優しく微笑んだ。それにつられて私も笑顔になった。
「じゃあ、俺の知っている知識を全て教える。ちゃん
とついてこいよ」
「はい!」
私はこれ以上ないくらいの気合いの入った返事をした。そして教えてもらうべく、彼のあとについていった、その時だった。
「うっ、痛い......」
一瞬、私に謎の痛みが襲ってきた。その痛みは、すぐに消えたので、特に気にせず、またすぐに彼のあとをついていった。
「ここだ」
彼に連れられた場所は、書物がたくさん並んだ小さな部屋だった。そこは昼だと言うのに薄暗く、ほとんど何も見えなかった。すると、祐一さんは今ではあまり使われなくなったランプを手に取り、火を灯した。
彼はしばらく辺りを見回していた。
「よし、大丈夫だな」
私は、その合図で部屋の中に入った。ずっと使われていなかったのか、どこか埃っぽく、錆の臭いがした。しかし、どこかあたたかい感じの部屋だった。
「まずは、この本を読め。明日、色々説明する」
と言った彼は、私に一冊の冊子を渡した。中をチラリと見ると、日記のようだった。それから私たちは、部屋をあとにした。私は自分の部屋へ行き、日記のような冊子を読み始めた。数時間、ひたすら読み進めた。そして最後のページに入った。
「漬け物には真心、すなわち製造者の愛が必要不可欠
である、か......」
私は最後に書かれたところを声に出した。私には意味がよく分からなかった。私は考えることを止めた。今さらだが、私に漬け物が作れるのか不安になってきた。急に眠気に襲われた私は、そのまま重たくなったまぶたを閉じた。