23話
私は叫びそうになった口を慌てて塞ぐ。叫んだりしたら、恥ずかしいし、何せここは病院だ。迷惑がかかってしまう。いや、そんなことよりもだ。
「何で、え......あ、えっと」
「そんなに驚かないでくれ。約束しただろう。迎えに
行くって」
「祐一さん! 良かった......祐一さんの顔が見れて」
彼はすぐに私に近づき、思い切り抱き締める。
「ミチカが待っててくれて良かった。もしかしたら、
そんなことをいつも考えてビクビクしてた」
「私......ごめんなさい! 何度もあっちへ行きかけた。
祐一さんを何度も、一人に、させ、かけ、た......」
言葉がうまく繋がらない。泣いているせいだ。声も震えて、子供みたいだ。祐一さんに抱きしめられてる 、それだけで嬉しくて、胸が苦しくて......言葉では言い表せない何かが胸の中でグルグルしている。とにかく嬉しかった。
「ミチカ、ミチカ。夢みたいだ。今ここに、愛する人
がいるだけでこんなにも幸せなんだな」
「私も幸せで、天に昇りそう。幸せすぎて」
私は精一杯の幸せを彼に伝える。伝わっただろうか。私のこんなにも幸せな気持ち......
祐一さんはずっと抱き締め、私の名前を呼んでいた。恥ずかしくて、くすぐったかったがそれ以上に幸せだった。と、私は急に体の力が抜け、祐一さんに全体重がのしかかった。
「ミチカ? おい、どうした!」
私は悟った。私のやるべきことを終えた、つまりお迎えが来たのだと......今は罪悪感でいっぱいだ。祐一さんを一人にしてしまう、それしか考えられなかった。
「ミチカ、もういくのか?」
「うん、ごめんね。一人にしてしまう......」
彼は私のおでこに軽くでこぴんをする。私は彼のその行動に驚いた。
「バカだな。一人じゃない。お前がそばで見守ってく
れるんだろう? それとも俺のこと放っておくのか?
薄情なやつなのか?」
「そんな、まさか。ずっと見守っておくよ」
「だろ。だから、な。安心して、眠りにつけ」
不思議と、私の目からは涙が出なかった。それどころか今までで最高の笑顔を見せることができた。
「先にいくから、祐一さんは長生きしてね。"その時"
が来たら迎えにいくよ。だからその時までさよなら
しよう」
「ああ、元気でな。ミチカ、愛してる」
そう言い、彼、祐一さんは私に優しく口づけた。そして私は最後の言葉を残して、深い眠りについた。
「快楽の世界へようこそ」