16話
"駆け落ち"その言葉を聞いて驚く。まさか、と自らの耳を疑った。戸惑っている私をよそにお父さんは話を続けた。
「お父さんは施設で育ったんだ。お母さんは裕福な暮
らしをしていた。出会ったのは、仕事場で、一目見
てお母さんに恋した。両思いだったみたいで付き合
い始めた。お父さんはすぐにお母さんの両親に挨拶
にいったが猛反対された」
お父さんはそこで言葉を切った。私はすぐにその先の言葉が分かり、お父さんに言う。
「だから、駆け落ちしたんだ......」
うん、とお父さんはうなずく。しかし、さらに続けた。
「お腹にな、お前がいたんだ。駆け落ちして一年経っ
た頃だった。だからお母さんの両親に会いに行った
。そしたら許してくれたんだ。娘、お母さんに苦労をさせないという条件付きで」
そっか、と私は呟く。でも、なぜ今この話をしたのか私には分からなかった。それを聞こうとしたときお父さんが私の目をじっと見つめた。
「何?」
お父さんは私の言葉を聞き、ふぅ、と軽い深呼吸をして言った。
「もし、お前が話したいことが祐一という青年のこと
だったら......」
私はその言葉にドキッとする。祐一さんのことは両親には言ってない。ましてや好きだなんて......そんなの言えるわけなかった。だから今日、言おうと思っていた。ここで否定されれば、私は耐えられないだろう。私が、怖くてうつむいた時だった。
「ミチカは祐一君が好きなんだろう?」
私はお父さんの一言で金縛りにあったかのように、体がびくともしなくなった。