9 断罪 後
「敵が迫っている。フローラル、君だけでも逃げろ」
「愛する方がいないなんて嫌よ、一緒に行きましょう」
1人だけなんて怖すぎてフローラルには無理だった。
護衛も欲しいし、王子たちには死なれたら困るから一緒に逃げればいい。
「なりません、大将が戦線を放棄するなど」
髭面のジジイを無視して王子を説得する。
「でしたら指揮権を渡せばよろしいのよ。オーディナル様はあたくしを守って」
(とにかく逃げなくちゃ。このまま殺されるなんてたまったもんじゃないわ)
「あそこに王家の紋があるぞ、討ち取れ!」
馬で逃げたのに敵の手が迫ってしまう。
フローラルはとっさに頭を働かせた。
「どうしましょうサーベルト、このままでは全員捕えられてしまうわ。ああ、公爵家の連中に捕まったら何をされるか分からないのに。このまま自害すべきかしら」
死をちらつかせて1番攻撃力のある彼にすがれば、思った通りの答えをくれる。
「俺が食い止める。君は逃げろ!」
時間は稼げた。どうにか王都まで帰還する。
しかしそこで待っていたのは破滅だった。
「なんでなんでこんなことに」
オーディナルは王族から籍をぬかれて、みっともなくいじけている。
戦場から逃げるのはすごく不名誉なことらしい。王様からたくさん叱られていた。
(知っていたら置いて行ったのに、どうして誰も教えてくれなかったのよ)
王子は母親の実家に送られることが決まった。フローラルもてっきりついて行けると思ったが、同行は禁止される。
(くっそ、さすがに王様は言いくるめられないか)
死んだと思ったサーベルトは戻って来た。
醜い傷だらけでフローラルにすがってくる。
「君のために俺は命をかけたんじゃないか」
「あら、あたしはそんなこと頼んでいないわ」
サーベルトも伯爵家から身捨てられていた。貴族でなく美しくもない男などフローラルの視界に入れたくない。
「あなたが弱かったのがいけないんでしょ。あたしのせいにしないでよ」
気に入らない男は捨てればいい。
(ショーンも貴族籍がなくなっちゃったし、ジェームズの家は貧乏になったし散々じゃない)
デューカスだけは何とか文官として生きて行けそうだった。しかしフローラルが近づこうとしても断られる。
(何よ! あんなにあたしのこと好きって言ったくせに)
「フローラル、お前がここまで使えないとはな。我が家から出て行け」
ガーデン男爵は義娘へ無情に言い放つ。
「公爵令嬢に無礼を働いたなど信じられん」
(そもそもあんたのせいだろう)
フローラルは高位令息を落とせと命令されたから、そうしただけだ。少しやりすぎたのは自覚しているが。
「ご令嬢は無事に隣国で保護された。これからは公国の跡継だ。どう言い訳をすればいい?」
(あの女、結局幸せになるのか)
フローラルの頭に血が上る。
「外聞もあるから修道院を手配してやった。感謝しろ」
(感謝しろですって?王子に頼んで散々口利きしてやったのを忘れやがって)
しかしそれを口にしても無駄なことは分かっている。今のフローラルに勝ち目はなかった。
(どいつもこいつもふざけるな)
フローラルは唇をかみしめながら今、馬車で僻地に向かっていた。
まるで囚人を護送する馬車のように乗り心地が悪い。
窓も小さく明かりはほとんど入らなかった。
(長時間の馬車なんてほんっとうに無理! 少しは休みなさいよ)
舌を噛みたくないから心で悪態をついていると、馬が騒いで馬車が止まった。
「誰だお前、何をする!」
御者も騒いでいる。
箱馬車の扉が開けられ、フローラルは明るい場所に引きずり出された。
「お前さえいなければ」
彼女の目は光で見えないけれど、声は知っている。
「お前さえいなければ殿下も俺も狂わなかった。殿下が婚約者と結婚していれば公爵家とも争わなかったし無駄に仲間を死なせなくて済んだ。俺は近衛騎士として王家に仕えるはずだったのに!」
「うるさい、あたしは悪くない」
フローラルの抗議を襲撃者は聞かない。
「全部お前のせいだ‥」
男は腕を上げ、彼女の体に冷たく固い刃物を突き立てる。
痛みはそこまで感じなかった。
光に慣れた彼女の目に入ったのは、自身から吹き出す真っ赤な血。
「いやああああ!」
女の意識はそこで途絶えた。
こちらもよろしくお願いします。
(ポンコツになる予定の)王子様を育ててみた♪
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こちらの話と設定や人名は同じですが、テーマが真逆のラブコメです。




