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隣国で愛されますからお気になさらず  作者: ノーネアユミ


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8/10

8 断罪 前

 なぜこんなことに。

 女は粗末な馬車に揺られながら唇をかみしめた。


(あたしは王子様と結婚して幸せに暮らすはずだったのに)


 女の名はフローラル・ガーデン。



 幼い時の彼女は何も持っていなかった。

 父親が生きている間はまだマシだったかもしれない。しかし父が亡くなってか、母親は娘に構う暇もなく働きづめになった。そしてその母も病に倒れる。

 薬があれば助かっただろうが、とてもフローラルには買えない。


「だれか助けてよ」


 町に人があふれても、貧しい母子を顧みる人間はいなかった。



 母の死後、知らない大人がやってきてフローラルを孤児院に入れる。

 そこでも状態は良くならなかった。食べ物は奪われるし暴力も振るわれた。

 大人や力の強い子に取り入らなければ生きていけない。


 転機はお貴族の旦那様がいらした時だ。

 フローラルは身に着けた処世術で精いっぱい媚びを売った。

 魔力があることも功を奏し、彼女は引き取られる。


 養父となった男爵には跡取りがいなかった。


「お前には貴族の学園に入ってもらう。その顔なら婿を見つけられるだろう」



 家庭教師には一通りのマナーと知識をたたきこまれた。


「これだから平民出は物覚えが悪い!」


 ムチでたたかれるのが嫌で必死に覚える。

 学園に入学後は寮生活だから、男爵とも家庭教師からも解放された。



 寮で、フローラルは1人の少女と出会う。


 レジーナ・ベネット。彼女は全てを持っていた。

 富・恵まれた環境・美しい婚約者・高貴な身分・賢さ・洗練された所作・愛してくれる家族。


 生まれながらにして当たり前のように享受している彼女を、フローラルは許せなかった。


(すべて奪ってやったら、あれはどんな顔をするのだろう)



 貴族の子女なんて箱入りの世間知らずだ。

 フローラルがちょっと人間関係を操作しただけでひび割れる。

 自分に治癒魔法の才能があったのも利用した。

 神に選ばれし聖女であると匂わせ、公爵令嬢に嫉妬されていると嘆く。


 悪意に打ちひしがれるレジーナを見るのは気分が良かった。

 自分より下に引きずり降ろしてやる。

 婚約者の心も、級友も、教師からの信用も、少しずつそいで行った。


 全てが思いのままに進みすぎて面白い。

 フローラルは止まれなくなって行く。

 まるで依存性のある毒に侵されたように。



「あたくしが用意したお菓子は食べてくれないのね」


 悲し気に自分から口に入れれば、公爵令嬢とてさし出された菓子を断れない。

 フローラルは茶会の後ですぐに吐き出した。この毒は遅効性だから吐き出せば大きな問題はない。


 解毒の呪文は構成できていたし、自分たちは問題なく終わった。



 そして嫌がらせの全てを自分がされたこととして、王子に吹きこむ。



 レジーナの婚約者である王子は、フローラルの言葉をそのまま信じた。

 少しかわいらしくねだれば何だって買ってくれる。

 愚かなオーディナルはフローラルの思いのままだ。

 彼女が隠れて側近と戯れても、一切気がつかない。


(これなら、あたしが王子の婚約者になることだってできるんじゃない?)


 社会の底辺を這いずった自分が、王族に。

 これ以上の快感はないだろう。




 計画は全てうまくいったはずだった。


 あの女は身分をはく奪され、無一文で家族にも会えない国外に追放される。


「かわいいフローラル、これで僕たちは結婚できるね」


 しかしその話は中々進まない。



 ある日フローラルは王宮から呼び出された。

 婚約の話としか思ってなかったが、反乱をおこした公爵家の対処を王子たちと共に命じられる。


 フローラルは聖女として戦場に連れ出されてしまった。



「あたくし怖いわ、守って下さる?」


 それでも周りの男共にすがりついて、安全な城壁内の治療だけで済ませてもらう。



 フローラルだって戦争は嫌だった。 

 近衛兵は顔も装備もきれいだから直すが、泥と血にまみれた兵なんて触りたくもない。


「聖女様、どうか我々も助けて下さい」

「他に治療師の方もいますので、そっちに頼みなさいよ」


 治癒魔法が使えるのは別にフローラルだけじゃない。

 王子たちさえ喜ばせていればいいかと思っていたのだ。



(あたしは悪くない)


 王子が愚かすぎて負けたのが悪いのだ。



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