7 新しい縁談
「レジーナ、少しいいかな?」
朝食時、父親が穏やかに語りかけた。
「お前に縁談が届いているんだ」
レジーナの動きは一瞬止まる。
胸が痛んだが、彼女はこの公国の唯一の跡取りである。
有力者と縁組を結ぶことは生まれたばかりの小国を支えるための必須事項。
断れるはずがない。
『それでも待っていて欲しい。せめて1年、私に与えてくれないか』
しかし別れ際伝えられたアルベールの言葉を忘れることはできなかった。
「お父様、もう少し待てませんか? その、1年くらいは」
「そうしたいところだが、選定はそろそろ始めたいんだ」
それでもレジーナはうなずけない。
婚約者候補の履歴や姿絵が送られてくるも、本気で確認する気はおきなかった。
両親に急かされるたび、アルベールから渡された指輪を握りしめる。
「今度の方は乗り気でね、直接こちらに来られるらしい」
書類を手渡されてもレジーナはあいまいにほほ笑むだけで精いっぱいだ。
あくまで顔を合わせるだけとの条件で茶会が開かれる。
「お客様のお越しにございます」
執事が扉を開き、サロンに招き入れる。
目をふせるレジーナに、来訪者は声をかけた。
「レジーナ嬢、お会いしたかった」
そこに現われたのは銀髪に褐色の肌の青年だった。
レジーナは目を瞬かせる。
「なぜ?」
彼女は困惑していた。
アルベールが貴族だとは知っていたが、屋敷の大きさや調度品から公爵家につり合う身分とは思えなかったのだ。
「改めて名乗らせていただきます、私はアルベール・カステル。現ヴァルール王の弟です」
彼はレジーナに歩み寄り、手を取る。
「以前名のったジュノーは母方の姓です。母は先王の愛妾で、私の王位継承権はないも等しかったのですが」
レジーナの指先にアルベールの唇が触れる。
「あなたを手に入れるため、兄を説得しました。今の私は名ばかりですが公爵位をたまわっております。求婚には十分でしょうか?」
「お父様もお母様も意地悪。アルベール様のことを黙っていたのね」
レジーナは責めたはずなのに、両親はニコニコしているだけ。
「レジーナちゃんを驚かせたかったんだ」
「教えて下されば良かったのに」
「まあ急に決まったことでね」
アルベールが眉を下げた。
「ごめんね、レジーナ。兄の説得に失敗するかもしれないって不安で伝えられなかったんです」
落ち着くまでに時間がかかりそうで、2人はサロンの席に着く。
「その、改めてなのですけれど、本当に‥わたくしと‥」
「もちろん。生涯を共にするのならあなたしかいません。私たちが国境の町で出会った日のことを覚えていますか?」
レジーナはうなずいた。
あの夜の焦燥と感謝は忘れられない。
「あの日、火花を振りまくあなたに、私は一目で恋に落ちたのです」
「あの恥ずかしい姿を見られてしまったのね」
レジーナにとっては何も考えず出したつたない技だが、アルベールにとっては違うようだ。
「闇の中に輝くあなたはまるで妖精のようでした。儚く消えてしまいそうな」
だから声をかけても消えなかったことにアルベールは安堵したらしい。
「妖精の姫、どうか私と、そして我が国と縁を結んでいただけませんか?」
彼はエメラルド色の瞳でウィンクした。




