5 別れ
戦端が開かれて一ヶ月。
戦いは公爵家の圧勝だった。
王軍を率いたのは騒ぎの元凶オーディナル。
彼の指揮した近衛隊が、まったく役に立たなかったのだ。
戦いは始め、教本通りに進んだ。
それはよくある展開だが、そこから乱戦になった途端に王軍はドンドン崩れだしたのだ。
王軍はお手本通りの戦法しかとれなかった。
実戦を知らない王族が軍を率いる時は、必ずお目付け役の老将がつけられ実際の指揮をとる。
しかしオーディナルはベテランの意見を無視した。
そして作戦をデューカスやサーベルトと話し合って決める。
あきれた老将軍は本陣の防御に徹したそうだ。王子たちが逃げても全滅を避けられたのはそのおかげだとか。
そう、雲行きが怪しくなったオーディナルは戦線から逃亡した。わずかな供を連れて。
公爵家の追撃により王子は深手を負い、サーベルトは行方不明に。
あわてた王家は公爵家の要求を全て飲んだ。
独立を認め、正式に謝罪を入れ、賠償金を払う。
鉱山と隣接する都市1つが公爵家の物になった。
そして新生ベネット公国とヴァルール王国は国交を結ぶ。
「我が国からも支援が行きましたから」
アルベールから聞いていたので負けるとは思わなかったレジーナだけど、戦勝の報告には涙を流した。
「家族も知り合いも全員無事ですわ」
領地に平和が訪れた。
しかしそれは同時に別れももたらす。
「アルベール様‥わたくしは領都に帰りますわ」
「ああ、名残惜しいがあなたを引き留める理由がなくなってしまいました」
東屋での2人きりのお茶。
それも今日で最後だろう。
「その、気がついているかも知れないですが‥私はあなたのことを、愛しています」
レジーナの頬がバラ色に染まる。
「わたくしも、ですわ」
アルベールは椅子から立ち上がってレジーナを抱きしめた。
「本当に? うれしくておかしくなりそうです」
「でも、わたくしたちは‥」
レジーナだって嬉しいのだが、素直に喜ぶことはできない。
貴族の婚姻は家同士の結びつきが第一。
独立を果たした実家にとって、一人娘の婚約は慎重に決定する必要があった。
「それでも待っていて下さい。せめて1年、私に与えてくれませんか」
さし出されたエメラルドの指輪を、レジーナは断らなかった。
数日後、公爵家の馬車が迎えに来た。この国に来た時の粗末な馬車とは比べもつかない豪華さだ。
「アルベール様、みなさん、大変お世話になりました。この御恩は一生忘れません」
レジーナの手をアルベールは握る。
別れのあいさつにただの握手は味気ない。
しかし彼はレジーナの夫でも婚約者でもないのだ。
ただ助けた人と助けられただけの関係。
(この方のことはあきらめて、笑顔でお別れしませんと)
アルベールをまっすぐ見つめるレジーナの頬へ、彼はそっと口づけた。
戦術は話し合って決めちゃダメ。
「異世界でヤバい妹になった私は生きるためにあがく」もよろしくお願いいたします。
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