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救出された

(2045年4月下旬、3日後、アメリカ、BSAA専用病院病室、午前)


消毒液の匂いにピアースは顔をしかめ、ゆっくりと目を開けると白い天井が視界に入り、耳元ではモニターの規則的な「ピピ」という音が聞こえる。思考を整理する間もなく、懐かしい影が猛然とベッドサイドに駆け寄り、嗚咽を含んだ息と共に彼を強く抱きしめた。

「ピアース!やっと目を覚ましたのか!」クリスの声は激しく震え、掌で彼の背中を撫でる力はほとんど彼を自身の胸に埋め込まんばかりだった。「俺が悪かった、イタリアに君を隊長として送り込むんじゃなかった……自分で行くべきだった」

ピアースは一瞬硬直し、その後クリスの背中を軽く叩き、声はまだ少し嗄れていた:「何を泣いているんだ、俺は無事じゃないか」彼はクリスの肩が震えているのを感じ取り、温かい涙が彼の患者服を濡らしていた。「ただ少し怪我をしただけだ、君が思っているほど深刻じゃない」

「深刻じゃない?」クリスは彼を離し、彼の顔を捧げるようにして仔細に見つめ、目の縁は赤くなっていた。「47が君を救出した時、君はほとんど脱水症状で、服もなく……」

「クリス」ピアースは優しく彼を遮り、指先で彼の目の端の涙を拭った。「もう大丈夫だ、本当に」彼の眼差しは優しく、安心させる笑みを浮かべていた。

病室のドアが静かに開き、47が入ってきた。黒い戦闘服は既に普通のダークトレンチコートに替わり、相変わらず無表情だった。「彼が目を覚ましたなら良かった」彼はクリスを見て、平淡ながらもわずかに気づきにくい安堵を帯びた口調で言った。

「47、本当にありがとう」クリスはすぐに立ち上がり、47の手を強く握った。「君がいなければ、私は本当に……」

「職務です」47は手を引っ込め、病床のピアースを見やった。「しかし残念ながら、教皇は逃げられました」

「逃した?」ピアースは猛然と起き上がり、モニターが瞬時に緊急警報を発した。「どういうことだ?」

「カルロフォルテ町のウイルスは完全に制御不能です」47が説明し、指先で無意識にポケット内の拳銃を撫でた。「変異したククルカンウイルスで、伝染性は予想の3倍です。教皇はイタリア部隊の封鎖を突破し、直接海に飛び込んで消えました。本来ならBSAAは温圧弾での完全排除を提案しましたが、イタリア政府は海域汚染を恐れて強硬に反対しました」

「ジュリアンのあの野郎……まだ生きている?」ピアースの歯が軋む音が響き、爪が掌に深く食い込み、過去の恐怖と屈辱が再び込み上げてきた。

「当面は」47が頷いた。「しかしここは安全です。他に用がなければ、私とグレイスはICAに復命します」

クリスは再度感謝した:「今回の組織間協力は本当に君たちのおかげだ。今後BSAAに必要なことがあれば、遠慮なく言ってくれ」47は軽く頷き、振り返って病室を去った。


(病院ロビー、同時刻)


47は廊下の突き当たりまで歩き、携帯電話を取り出して素早くメッセージを編集し、エイダ・ウォンに送信した:【作戦失敗、ウイルスサンプル及び有効な情報は得られず、申し訳ありません】送信成功後、彼は携帯をしまい、ロビーの自動販売機に向かって二杯のアイスコーヒーを買った。

グレイスは窓際の椅子に座り、指で無意識にタブレットを滑らせていた。画面にはカルロフォルテ町の災害後の衛星画像が映っている。47が近づくのを見て、彼女はすぐに顔を上げた:「ピアース先輩、目を覚ましたんですよね?」

「ああ」47はそのうちの一杯を彼女に手渡した。「クリスが中で付き添っている」

グレイスはコーヒーを両手で包み、一口すすり、眼差しは複雑だった。「ただ……おそらく彼も私と同じように、密かに監視されることになるでしょう」彼女は、ピアースが教皇事件を経験し、教皇に感染したため、今後BSAAから重点的に監視されるに違いないと暗に示した。

「私は君たちの安全を守る」47の口調は相変わらず平静だが、疑いようのない確信を帯びていた。「BSAAもそうする——クリスは彼を見捨てない」

グレイスは数秒沈黙し、突然顔を上げて尋ねた:「カビ菌に感染するのはどんな感じですか?」

47は一瞬驚いたが、すぐに首を振った:「分からない。クリスに聞くべきだが、多分普通人と大差ないだろう。違いは……不生不滅ということだ」

「ではピアース先輩にはこの秘密を隠しておくべきですか?」グレイスの声はとても低かった。

「もちろん」47は病室の方向を見た。「クリスが彼を守る。知らないほうが良いこともある」彼は一息つき、珍しく謝罪の気持ちを込めて言った:「悪い、カルロフォルテ町で、君の母親を消してしまった」彼が指すのはアリサのことだ——当時、あの変異吸血鬼は民間人を攻撃しており、彼は撃つしかなかった。

グレイスはコーヒーカップを握る手に力を込め、眼底に一瞬の悲しみが走ったが、すぐに悟ったような表情に変わった:「構いません。もう運命は受け入れています」彼女は顔を上げ、窓の外の陽光を見つめた。「彼女はとっくに私が知っている母親ではありませんでした。あのような怪物になってしまっては、生きているのも苦痛です」

「何年も心の準備をしてきました」彼女は笑ったが、目の端は赤くなっていた。「彼女が害されたあの日から、いつかこうなる日が来ると分かっていました。今、彼女は解放され、私も納得しています」

47は沈黙し、何も言わなかった——彼は人を慰めるのが得意ではなく、ただ静かに彼女に寄り添うことしかできなかった。しばらくして、ようやく口を開いた:「行こう、ICAに戻る時間だ」

グレイスは頷き、立ち上がるときに突然冗談を言った:「もし後で車の中で私が泣いたら、感情を解放するのを止めないでくださいね」

47は彼女の赤くなった目の縁を見て、軽く頷いた:「止めない」


(2045年4月下旬、北大西洋海域上空、正午)


深海の青黒さはまばゆい日光によって引き裂かれ、ドレイコフの海底要塞は潜伏する巨獣のようにゆっくりと海上に浮上し、金属外殻は陽光の下で冷たく硬い光沢を反射した。耳を聾する轟音と共に、アルバート・ウェスカーの天空浮遊基地が雲層から急降下してきた——その超大型要塞の底部から数十本の油圧ロックが伸び、正確に海底要塞の頂部インターフェースに接続し、「カチカチ」という音が次々と響き、二つの鋼鉄の躯体は半空で結合を完了し、千メートルにわたる巨大な空中要塞を形成した。

スラスターは灼熱のブルーフレームを噴出し、巨大要塞はゆっくりと浮上し、北極方向へと疾走していった。


(要塞中枢指揮室、同時刻)


円形会議テーブルの傍らで、スペンダーは葉巻を咥え、画面上の教皇が海に飛び込んで逃走した情報を見て眉をひそめていた。ウェスカーは椅子にもたれ、指先で机を軽く叩き、黒いトレンチコートの裾が要塞の微かな振動に合わせて揺れている。ファットマンは向かい側に座り、腹立たしそうにテーブルを叩き、肥満肉が震えた:「ちくしょう!イタリア軍は何をやってるんだ?怪物一匹取り押さえられないなんて!」

「落ち着け、ファットマン」ドレイコフはコーヒーカップを手に取り、指先は少し冷たかった。「少なくとも我々は既に海上を離れた。奴が魚に変わったとしても追いつけない」

隅にいたパークが突然口を開き、手にしたスケッチブックを掲げた:「字は黒だ」一同はすぐに集まり、ページにはっきりと書かれているのを見た:【教皇逃走は当面直接的な脅威とはならず、要塞移動は安全】。

「黒ならまだ良い、赤じゃない」スペンダーは安堵の息をつき、灰皿に葉巻を押し潰した。「少なくとも短期的には大事にはならない」

「短期的?」ファットマンは冷笑し、ウェスカーを見た:「ウェスカー、お前の要塞のレーザー砲は空母を撃ち抜けるって言ってなかったか?あの老いぼれの痕跡さえ見つかれば、直接位置特定してぶっ飛ばせ!夜長夢多だ!」

ウェスカーの口元に冷たい笑みが浮かんだ:「レーザー砲はいつでも準備できている。だが前提は目標をロックできることだ——海中の信号妨害が強すぎる。情報網のフィードバックを待たねばならない」


(要塞客室、同時刻)


ホワイトノイズはソファに縮こまり、指でオキシゲンの服の裾をしっかり握りしめ、眼差しには恐怖が満ちていた。オキシゲンは彼の隣に座り、優しく彼の頭を撫でながら、優しい声で言った:「怖がらないで、僕たちは今、空中にいる。教皇はここには見つけられない」

「でも……でも奴が海の怪物になって追ってきたらどうする?」ホワイトノイズの声は震え、サルデーニャ島のホテルの悪夢がまだ脳裏から離れない。

「そんなことない」オキシゲンは彼を抱き寄せた。「ウェスカーの要塞には最先端の防御システムがある。仮に本当に追ってきても、入ることはできない。それにディーカン兄さんたちもいるし、僕たちを守ってくれる」彼はうつむいてホワイトノイズの頭頂部に軽くキスし、体温で相手の不安を鎮めようとした。


(中枢指揮室、10分後)


大門が猛然と開き、ディーカンが入ってきた。「俺は京都のナイトクラブに戻る」彼は単刀直入に、慣れっこな威圧感を帯びた口調で言った。

ドレイコフはすぐに顔を上げた:「今?教皇が逃げたばかりだ。奴がお前に復讐するかもしれない!」

「復讐?」ディーカンは嘲笑した。「あの老いぼれは今では頭のない蝿同然だ。本当に京都で俺に因縁をつけに来るなら、半血族の実力を見せてやる——ちょうど俺も楽しめる」

「小僧、度胸があるな」スペンダーは笑いながら彼の肩を叩いた。「なら俺たちは皆、お前の活躍を待っている」

ドレイコフはまだ引き留めようとした:「ディーカン、もう少し待て、我々が状況を安定させるまで……」

「必要ない」ウェスカーが突然口を開き、眼差しは刃のように鋭かった。「ディーカンは半血族だ。速度と自己治癒能力は常人をはるかに上回る。あのウイルス反噬の怪物を相手するには、十分すぎる」

ドレイコフは数秒沈黙し、結局頷いた:「それではよかろう。だが覚えておけ、一旦教皇の痕跡を発見したら、必ず最初に我々に連絡し、万全を期すんだ」彼は一息つき、口調を和らげた:「立ち去る前に、ホワイトノイズとオキシゲン、そして姉さんに別れを告げて行け」

ディーカンは頷いた:「分かった」彼は振り返って入口に向かい、黒い影はすぐに廊下の奥に消えた。

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