長距離
（渭河平原、Wang Er Gou（王二狗）のリンゴ園、2032年10月、明け方）
薄雪がリンゴ園の枝に覆いかぶさり、禿げた幹に白いヴェールを巻いたようだ。Wang Er Gouは園の端にしゃがみ、箒で木根元の雪をそっと掃き除き、下の柔らかい黒い土を露出させる。この一年は速く過ぎ、リンゴの木が花を咲かせて実をつけ、葉が落ちて雪に覆われるまで、彼とLin Xiao Bai（林小白）の手紙のやり取りは途切れることがなかった。一ヶ月に二三通は届き、土壁の家の引き出しには封筒が厚く積まれている。
Wang Er Gouの字は以前よりはるかにきれいになり、「放射線」「生化」といった新しい単語も使えるようになった——これらはすべて夜、油燈の下で独学したものだ。彼は昼間は園の世話をし、夜は本を読んで勉強し、まず小学生から中学生の教科書を読み終え、さらに省都に行く村人に頼んで外国語の本や国際ニュース誌を持ってきてもらった。町に格闘館が開いたので、彼は毎週三回通って格闘術を学び；その後射撃場にも行き、数回銃を握った。コーチは「手が安定し、心が静かで、射撃の才能がある」と評価した。
新しいことを学ぶたびに、Wang Er Gouは時間を作って省都にLin Xiao Baiを訪ね「自慢」する——新しく学んだ拳法を披露するか、外国語のニュースを一編理解できるようになったと話す。Lin Xiao Baiはいつも笑顔で聞き、眼を輝かせて「二狗兄、ますますすごくなりましたね」と言い、その後彼を路地口の麺屋に連れて行き、鹵蛋を二つ追加して祝いとする。
（省都駅、2032年10月中旬、午前10時）
この日、Wang Er Gouはまた省都に来た。新しく買った黒いジャケットを着て、襟元をきちんと立て、髪は短くてスッキリした髪型に切ってあり、歩く姿は力強く、去年初めて省都に来た時のもどかしさは全然なくなった。Lin Xiao Baiは駅の出口で待っていた。象徴的だった青色の髪はグレーブルーに褪せていたが、それがますます肌の白さを引き立てている。ただ顔色は以前よりやや暗く、いつものようによく笑う姿ではなかった。
「二狗兄！」Lin Xiao Baiは出迎えに来て、自然に彼の肩を叩き、指がWang Er Gouのジャケットに触れる。「また丈夫になりましたね。この服はよく合っています。」
Wang Er Gouは笑顔でリュックサックから紙袋を取り出して渡す。「園の最後の一批のリンゴで、君のために取っておいた。去年のより甘いです。」
二人は肩を並べて路地裏に向かう。Wang Er Gouの歩幅が大きいので、Lin Xiao Baiは小走りでついていかなければならない。走りながら問いかける。「最近はどんな本を読んでいますか？前に話していた『国際安全概論』は読み終えましたか？」
「読み終えました。」Wang Er Gouは首を縦に振り、口調はいつもより厳しい。「国際ニュースも見ました。メキシコで事態が起きたことを知っていますか？」
Lin Xiao Baiの足取りが一瞬止まり、眉を寄せる。「ゾンビ事件ですか？ネットで見ましたが、偽ニュースだと言われていませんでしたか？多くのメディアが辟谣していますよ。」
「偽ニュースではない。」Wang Er Gouは首を振り、眼差しは確かだ。「ディズニーとシックスフラッグスが共同で建設した『Double Flag Disney』（双旗ディズニー）パークで、星塵放射線が漏れたため観光客がゾンビに変わり、さらにテロリストが混乱に乗じて人質を拉致しました。海外のウェブサイトを数件調べたら、現場の動画があります。ただ国内のメディアは報道する勇気がないだけです。」
Lin Xiao Baiの顔色がさらに暗くなる。「どうしてこんなに詳しいですか？海外のウェブサイトも見ていますか？」
「射撃場のコーチがVPN（翻墙ソフト）を教えてくれました。」Wang Er Gouは自然に話す。「BSAAの募集案内も見ました。彼らは省都に分部を設置し、今募集中です。生化危機に関する任務を担当するものです。」
Lin Xiao Baiは突然足を止め、Wang Er Gouの腕を掴む。「BSAA？あの反生化テロ組織ですか？二狗兄、まさか……応募しようとしていますか？」
Wang Er Gouは直接答えず、ただ前に進み続ける。Lin Xiao Baiは急いでついていき、心の不安がどんどん増えていく。
（Lin Xiao Baiの貸し部屋、2032年10月中旬、午前11時）
Lin Xiao Baiの住処に着くと、Wang Er Gouは慣れたように戸棚からお茶葉を取り出し、熱いお茶を二杯入れる。部屋は以前よりはるかに整然としていて、壁の映画ポスターは世界地図に取り替えられている。地図にはメキシコや東南アジアの数カ所が赤いペンで囲まれ、その横に「星塵放射線濃度」「ゾンビ分布」といった文字が注釈されている。
「これを見てください。」Wang Er Gouはリュックサックから印刷した資料を取り出し、Lin Xiao Baiの前に渡す。「BSAAの募集条件で、年齢、体力、射撃力、俺はすべて満たしています。」
Lin Xiao Baiは資料を受け取り、指が少し震えて紙の端をしごんでシワにする。「二狗兄、これは危険すぎる！あのゾンビは映画の偽物じゃなく、本当に人を食べるんだ！前に見たドキュメンタリーで、部隊員が一口噛まれただけで即座に変異しました……」
「危険だと知っています。」Wang Er Gouは彼の話を遮り、口調は平静だが確かだ。「たくさんの資料を調べ、射撃場で実弾練習もしました。コーチは俺のレベルで合格できると言いました。しかもBSAAには専門的な装備があり、自分たちで模索するよりはるかに安全です。」
「それは的を撃つのとは違います！」Lin Xiao Baiは焦って声を上げる。「本物の銃撃戦です！もし君が事態に遭ったら、俺は……」話せなくなり、眼が赤くなる。「君が行ったら、リンゴ園はどうします？お父さんの臨終の時、園をよく世話するように言っていましたよ。忘れましたか？」
「忘れていません。」Wang Er Gouは彼を見る。「既に園をLi Lao Han（李老汉）に貸し出しました。契約も締結しました。彼がよく世話をしてくれます。しかも家賃は外での生活費に十分で、心配する必要はないです。」
Lin Xiao Baiは唇をかみ締め、指で資料をしっかり握り締めて指関節が青くなる。「他に考えはありませんか？比如都会に残って、俺と一緒に映画を撮ること？最近ドキュメンタリーのプロジェクトを受け取ったので、たくさん稼げます。俺たちは……」
「考えたことがあります。」Wang Er Gouは彼の話を遮り、視線を窓の外に向ける。都会の空はどんよりしていて、田舎の空ほど青くない。「しかしメキシコの事は、俺が行かなければなりません。誰も解決しなければ、放射線とゾンビは全世界に拡散するかもしれません。その時はリンゴ園だけでなく、省都も安全ではなくなり、君も危険に遭うでしょう。」
Lin Xiao Baiは沈黙する。Wang Er Gouの言うことが正しいことを知っているが、それでも離せない。突然立ち上がり、ベッドの下から木箱を引き出す——去年映画用カメラを入れていたものだ。開けるとカメラはまだそのままで、その横にUSBメモリが追加されている。
「これを見てください。」彼はUSBメモリをパソコンに挿入すると、画面にすぐに映像が映る。BSAAの部隊員が某地で任務を遂行している場面で、銃弾が飛び交い、部隊員たちは廃墟の中を駆け抜ける。一場面は格外に残酷だ：一人の部隊員がゾンビに腕を噛まれ、血が飛び散り、隣の仲間は仕方なく銃を撃って彼を倒す。「見て！これが君の直面することです！どんなに危険ですか！命を落とすかもしれません！」
Wang Er Gouは真剣に見て、さらに画面を指して言う。「彼らの戦術的な連携は良いですが、火力配置に問題があります。側面から切入れば、犠牲者を減らせるはずです。」
「二狗兄！」Lin Xiao Baiはほとんど懇願するように、パソコンを閉じてWang Er Gouの手を掴む。「行かないでくれませんか？病気になったと言って、試験に受けられないようにしましょう。田舎に行き、君のリンゴ園に戻り、もう外に出ないで、いいですか？」
Wang Er GouはLin Xiao Baiの赤い眼を見て、心のどこかが柔らかくなる。この一年の手紙のやり取り、毎回会う時のLin Xiao Baiの笑顔、去年のafter partyでKestonを追い払った時のLin Xiao Baiの眼の輝きを思い出す。彼は手を返してLin Xiao Baiの手を握り、小声で言う。「小白、君が心配しているのは知っています。でもこの事は俺がやらなければなりません。」
地図の前に行き、メキシコの位置を指して言う。「そこは今、地獄のようです。救う人が必要です。俺がこんなに長い間格闘術と射撃を学んだのは、自分のためではなく、守りたい人を守れるようにするためです。」
Lin Xiao Baiは彼の毅然とした横顔を見て、突然気づく——かつてリンゴを育てるだけだった田舎の男が、もう責任感のある男に変わっていた。長い間沈黙した後、やっと譲歩する。「少なくとも……先に省都の分部から始めませんか？一気に前線に行かず、先に地元で後勤や訓練の仕事をしましょう。いいですか？」
Wang Er Gouは考えた後、首を縦に振る。「好。先に省都の分部に応募し、慣れたら前線に行く申請をします。」
Lin Xiao Baiは安心してため息をつき、引き出しからリンゴを一つ取り出して渡す。「これは前に君が持ってきたもので、食べるのを渋っていました。持っていって、思い出としてください。」
Wang Er Gouはリンゴを受け取って胸に入れ、心が温かくなる。「帰ってきたら、メキシコのリンゴを持ってきます。そこのリンゴは大きくて甘いと聞いています。」
二人は笑う。笑い声の中には名残惜しさがあるが、お互いの理解もある。
（BSAA省都分部、2032年10月下旬、午前9時）
翌日、Wang Er GouはBSAA省都分部に行く。試験は体力、射撃、理論の三項目で、彼の射撃成绩は第一位で50メートル以内で10発中9発を命中させ、体力試験も楽に合格し、理論試験は第一位ではなかったが合格ラインを超えた。面接官は老兵で、履歴書の「リンゴ園主」という経歴を見て眉を上げる。
「なぜBSAAに加入したいですか？」老兵はペンを回しながら問う。
Wang Er Gouは考えた後、真剣に言う。「人々が安心してリンゴを育てられるようにするためです。」
老兵は一瞬愣けた後、笑い出し、申請書に判を押す。「BSAAへの加入を歓迎します。明日報告に来て、装備を受け取ってください。」
分部の門を出ると、Lin Xiao Baiが外で待っていて、手に紙袋を抱えている。「どうでしたか？」Lin Xiao Baiは走ってきて、眼に期待が満ちている。
「合格しました。」Wang Er Gouは笑顔で言う。「明日から訓練です。」
Lin Xiao Baiは安心してため息をつき、紙袋を渡す。「中にリンゴを二つ入れました。さっきスーパーマーケットで買ったもので、持っていってください。時間通りにご飯を食べて、疲れ過ぎないでください。」
Wang Er Gouは紙袋を受け取って胸に入れ、昨日のリンゴと一緒に保管する。太陽の光がLin Xiao Baiのグレーブルーの髪に当たり、柔らかい光を放つ。「訓練が終わったら、路地口の牛めしを食べに行きましょう。鹵蛋を二つ追加します。」
「好。」Lin Xiao Baiは首を縦に振る。「待っています。」
（BSAA省都分部ヘリポート、2032年11月初旬、午前8時）
訓練はたった半月続いたが、メキシコの事態が突然悪化し、BSAAは緊急で特殊部隊を編成した。Wang Er Gouは優れた成績で選ばれた。出発の日、Lin Xiao Baiは見送りに来て、サイズが大きすぎる黒いジャケットを着ている——前回Wang Er Gouが彼の住処に忘れていったもので、明らかに特意に着てきた。グレーブルーの髪が秋の風に少し乱れ、眼差しは驚いた鳥のようにWang Er Gouをしっかりと見つめている。
「メキシコシティ行きBSAA特殊部隊の員は注意してください。10分後に搭乗してください。速やかにヘリポートに集合してください。」放送の女性の声が無感情に響き、明け方の静けさを打ち破る。
Wang Er Gouは新しい作戦服を着て姿勢がまっすぐで、Lin Xiao Baiの前に行く。二人は一メートル離れて立ち、まるで見えない川を挟んでいるようだ。「準備はすべてできましたか？」Lin Xiao Baiは問い、声が少しかすれている。
「嗯、装備はすべて点検しました。」Wang Er Gouは首を縦に振り、視線を彼の体に落とす。「ジャケットが大きすぎる。風邪をひかないでください。」
風が吹いて地上の落ち葉を卷き上げ、Lin Xiao Baiはジャケットを締めて突然言う。「朝のニュースで、メキシコシティに新しいB.O.W.（生物兵器）が出現したと言っていました。『手の平の怪物』と呼ばれて、頭はたくさんの手が組み合わさったもので、ゾンビも操作できるそうです……」
「知っています。ブリーフィングで言われました。」Wang Er Gouは彼の話を遮る。さらに心配させたくないからだ。
Lin Xiao Baiの声がさらに低くなる。「それでも行きますか？」
「正因为危険だからこそ、行かなければなりません。」Wang Er Gouは遠くで給油中のヘリコプターを見る。プロペラは既に回り始めている。「気をつけます。心配しないでください。」
警戒線の外のディスプレイでは、メキシコシティの現状が循環して放映されている：道路には捨てられた車がいっぱいで、建物から黒い煙がもうもうと立ち上り、時折ゆがんだ影がよろめきながら歩いている。ニュースキャスターの声が緊張している。「……『手の平の怪物』はTウイルスと未知の寄生虫が変異して生まれたものです。市民は疑似感染源に近づかないでください。BSAAは全力で事態を制御しています……」
Lin Xiao Baiは突然警戒線を越えようとして警備員に止められ、もがきながら叫ぶ。「二狗！Wang Er Gou！」
Wang Er Gouは振り返り、彼が二匹の警備員に掴まれて焦りに満ちた顔を見て心が締め付けられる。急いで警備員に向かって言う。「これは俺の友達です。少し話をさせてください。」
警備員が手を離すと、Lin Xiao Baiはすぐに駆け寄ってWang Er Gouの顔を掴み、つま先立ちでキスをする。Wang Er Gouは愣ける。Lin Xiao Baiの唇は柔らかくて冷たく、涙の塩味がある。周囲のすべての音が消えたかのようで、耳にはただ心拍音が轟くだけだ。
キスは短かった。Lin Xiao Baiはすぐに手を離し、息を荒げて言う。「生きて帰ってください。必ず生きて帰ってください。」
Wang Er Gouは機械的に首を縦に振り、数秒後にやっと立ち直る。Lin Xiao Baiの手を握り、真剣に言う。「俺は誓います。必ず生きて帰ります。」
「任務が終わった後、」Lin Xiao Baiは彼の眼を見て、涙が目尻に溜まっても落ちない。「一緒にいましょう。もう離れません。いいですか？」
「好。」Wang Er Gouは厳粛に首を縦に振る。「一言で定まります。」
「搭乗時間になりました。特殊部隊の員は直ちに搭乗してください！」放送が再び鳴り、催促の口調に緊急性が漂う。
Wang Er Gouは最後にLin Xiao Baiの手を握り、转身してヘリコプターに向かって走る。今回は振り返らなかった——自分が引き留まりたくなるのを恐れてだ。Lin Xiao Baiはその場に立ち、彼の背中を見送る。ヘリコプターのプロペラが激しい風を卷き上げるまで、ゆっくりと後退するが、依然として頭を上げている。グレーブルーの髪が風になびき、小さな旗のようだ。
ヘリコプターはゆっくりと上昇し、Wang Er Gouは窓から下を見る。Lin Xiao Baiはまだその場に立っていて、だんだん小さくなるが、その姿は依然として見える。隊長がイヤホンを渡す。「初めての任務は皆こうです。気持ちを落ち着けてください。前線に着いたら集中しなければなりません。」
Wang Er Gouはイヤホンをつけ、声は既に平静に戻っている。「大丈夫です。ありがとうございます、隊長。」
隊長は彼の肩を叩く。「緊張しないで。専門的な医療と後勤があります。指揮に従えば、生き残る確率は高いです。」
Wang Er Gouは首を縦に振り、胸からリンゴを二つ取り出す——一つはLin Xiao Baiが昨日渡したもので、一つは前に持ってきて食べるのを渋っていたものだ。どちらも少しシワになっているが、彼は大事に内ポケットに入れ、お守りにする。
「約1時間後にメキシコシティ上空に到着します。」パイロットの声がイヤホンから伝わる。「最後に装備を点検し、戦闘準備をしてください。」
Wang Er Gouは眼を開け、慣れたように銃と戦術装備の点検を始める。手は安定し、心拍も平穏で、まったく初任務の新兵のようには見えない。隊長は意外そうに言う。「本当にリンゴを育てていたんですか？軍歴はありませんか？」
「ありません。」Wang Er Gouは笑顔で言う。「でも生きて帰るために、長い間準備しています。」
Lin Xiao Baiのキスと誓い、リンゴ園の雪、二人の約束を思い出し、心に力が湧き上がる。ヘリコプターが雲を抜けると、メキシコシティの輪郭がだんだんはっきりする。上空から見ると、この都市は廃墟と火炎に満ちているが、希望も隠されている——誰かがこの希望を守るために、前に出ようとするからだ。
「注意！飛行型B.O.W.が接近しています！」パイロットが突然叫ぶ。「右エンジンが損傷しました。着陸準備をしてください！」
ヘリコプターが猛地に傾き、Wang Er Gouは手すりをしっかり握る。窓からゆがんだ影が機体に襲いかかるのを見て、仲間たちは既に反撃を始めている。彼は深呼吸をして手中の銃を握り締め、内ポケットのリンゴに触れる。心の中にはたった一つの思いがある：
「生きて帰らなければならない。Lin Xiao Baiのそばに帰るために。」
