第十一幕 椿先輩と一緒にテス勉!
4月が終わり、5月到来。地獄のテスト週間が近付いてくる_
二回目とはいえ、心配なものは心配だし、自信もあるかないかと聞かれたら100%ない。そんな状態に陥っている_
「倉川ちゃん、最近浮かない顔してるけど...テスト心配?」
部活終わりに、椿先輩が僕の顔色を伺っている_昔は見ず知らずの先輩って感じだったから、こう心配してくれるのは嬉しい限りだ。
「心配ですね...一回目のときは勉強を疎かにしたせいで、点数がグッと下がっちゃったので_」
「そういう事あるよねぇ〜私も中学の時はテストが地味に多くてひぃひぃ言ってたから、気持ちはわかるよ...高校のほうがもっと大変だけど_」
「高校の話は禁じ手です。しまっておきましょう。」
「そ、そこまで恐れることはないと思うよっ...た、多分。」
高校なんて先の話だから、考えたくない_そんな気持ちが顔に出た。
「まぁ、これから頑張ればきっと自分の思い通りの人生に進めるはずだよ!塵も積もれば山となるっていうでしょっ?」
ポジティブ精神、羨ましい。僕はテストの時や進路を決める時はいつも頭を抱える癖があるから、なかなか立ち直れなかったことなんてしょっちゅうあった。
「あ、そうだ!今日暇だから、私の家行かない?」
「_え?__えぇっ!?」
「テスト勉強とか出来るし、提出物も終わらせれるでしょ?」
確かにそうだ。自分の場合、憧れが目の前に居れば僕の作業スピードは何倍にもなる_
もしかして椿先輩は、最初からこれが目的で!?
「_ダメ?」
「だっ、ダメじゃないです!!親がどういうかはわかりませんが_」
「そっか、なら私の家に行くことを親に言って、いいよって言われたら遊びに来るって感じでどうかな?」
「それでお願いします!」
「んじゃあ決まりだねっ!部活も終わったし、早めに帰ろう!」
「はい!」
もしかして椿先輩が最近グイグイ来てるのは、タイムリープする前で椿先輩が高校2年のとき、隣に引っ越してきたからかも。んで、タイムリープしたパラレルワールドの世界では最初から僕の家の隣だったから_
いや、それは関係ないのかな?
それよりも、僕の親が許してくれるかどうか_そこが問題だ。僕の親は色々厳しいから...人様の家に上がり込むなんてこと言ったらきっと叱られるに違いない。
「行って来い。」
「え?」
「テスト勉強のためなんだろ?」
「そ、そうだけど_」
「どうした?」
「いや、怒らせちゃうかなって...」
「怒るなんてしないさ。」
こ、こんなにすんなり行くとは思わなかった_なにせ前は家に泊まると言ったときは稲妻のように怒鳴りつけてきたから...これもパラレルワールドの影響なのかな?
「倉川ちゃん!どうだった?」
「_OKだって!」
「やった〜っ!!」
椿先輩の喜ぶ姿が堪らなく好きだ。優しさが詰まったその喜びに、僕も不意に笑顔になる_
「ささ、上がって上がって〜!」
「お、お邪魔しまーす_」
_リビングと思われる部屋の扉の隙間に少し大きい人影が。
「そこに、誰か居る...?」
「あ、気にしないで!これは_」
(回想)
「お母さん、ちょっと客人を驚かせてみないか?」
「良いわねっ!近所の子だけど反応とか知っておきたいし!」
「でも、どこで驚かせようか_」
「王道的にリビングの部屋の扉に隠れるとか?」
「それいいな!」
(回想 終)
「そういうことなの...」
なんともまぁ、面白い夫婦だこと_でも、タネを知ってしまった限りは演技をしなければガッカリされかねない。ここは腕の見せ所!
「「わっっっ!!」」
「ふぇっ!?!?!?」
「(ちょ、ちょっと盛ったね...)」
盛ったことを勘付いた椿先輩からの鋭い視線を感じる。でも、やれることはやった_これでいい。
「良いリアクションだな!流石椿が呼んできた客人だ、面構えが違う_」
「あなた、使い方間違ってるわよ。」
「お母さん、それ以上はメタいからやめて。」
とても、面白い家族だこと_
「取り敢えず、自分の部屋案内してくるから。夕ご飯出来たら教えてね〜!」
「オッケー!勉強も頑張ってね!」
「おう!頑張れよ〜!」
(椿の部屋)
「はい!ここが私の部屋っ!」
「お〜!!」
中を見てみると、乙女らしい可愛いが詰まっていた。昔の男っぽくカッコいいというイメージを覆すような部屋の雰囲気。最近の性格を考えると、どこかで変わったと言っても不思議じゃないほどだ。
「可愛らしい雰囲気ですね!」
「前はこういうのには興味はなかったんだけど、倉川ちゃんと過ごしていく内に色々変えてみたいと思って、気付いたらこういう雰囲気にハマっちゃってた!という経歴があるっ!」
ぼ、僕が椿先輩を変えてたんだ_なんか嬉しい。
「さて、準備準備っと。」
最初は数学。やる時間は一時間ほど。僕は昔懐かしの正の数・負の数の勉強を、椿先輩は式の乗法・除法の勉強を進める。
「10-11=-1、-21+5=-16、-17-16=-35」
「(-3x+5y)×7x=-21x+35xy、(17xy-5y)×(-3y)=-51xy2+15y2、(16x-24xy2)÷8x=2-3y」
黙々と計算をしていく僕と椿先輩。辺りは徐々に橙色に染まり、暗くなっていく_そして静かな空気をシャーペンの音が包む_青春というものを体感できたような気がする。
学校でやる勉強と今の勉強、どっちが集中出来るかと言ったら十中八九今だろう。憧れの人が近くにいるんだし_勉強が捗る捗る〜
「_分数...僕の苦手なやつ_」
「あ、私も分数苦手!_奇遇だね〜!」
「ややこしさが嫌いで、問題によっては通分とか約分しないといけないのもあるので余計面倒くさい_」
「わかる!!中一、中二の頃の分数が混ざった方程式とかはちょー苦戦してたの覚えてる...」
「方程式...な、懐かしい_」
「でしょ〜!?時の流れって早いもんだねまじで。」
「ですね_」
その調子で数学の勉強は終わり。意外と計算って楽しいんだなと思えてしまった_これも椿先輩の力か_流石である!
「ご飯できたわよ〜!降りてきてちょうだい!」
椿先輩の母親の声。やけに響くね_
「は〜い!今行く〜!!_他の教科の勉強は取り敢えず、食事済ませて風呂入ってからやろっか!」
「了解です!!」
とは言ったものの、椿先輩と一緒に風呂に入るのは初めてだから、緊張とかは勿論ある。
「はいっ!お母さん特製の特殊ドレッシングがかかったロコモコ丼と豚汁!」
「うわお、美味しそう_」
普通のロコモコじゃなくて、デミグラスソース?か何かがかかったハンバーグが乗っている_しかもハンバーグが意外とデカい!箸で割ると、肉汁が飛び出してくる...さては奥さん、国産の高い挽き肉を使いましたね...?
「「「いっただきま〜す!」」」
「召し上がれ〜っ!」
まずは、いかにも美味しそうなどでかいハンバーグから_
「あ〜むっ、」
「ど、どう_?」
「う、」
「う...?」
「う...!」
「う......?」
「うんまぁいっ!!!!!」
「はぁっ......!!良かったぁっ!頑張って作った甲斐があったわっ!!」
何このハンバーグの肉汁とジューシーさ!!店レベルだよこれ!!何よりソースがコクや深みがあって美味しいっ!!隠し味、何入れたのかな...?気になるうっ!!
目玉焼き、綺麗に焼けている_膜が貼っていない無防備な姿が露わになっている黄身、焦げ目がいい感じになっている白身_全てが調和している!
ここは、白米と黄身、椿先輩のお母さんの言う特殊ドレッシングと絡めて頂こう_
「あむっ!」
な、なにこれ最高!?卵黄と白米の相性最高かよ!!そこに特殊ドレッシングの甘酸っぱさと黒胡椒のパンチが合わさって余計手が止まらないッ…!
そして、最後はいよいよ豚汁_国民の冷めきった心を温める汁物…お茶碗がじんわり熱い、でもそこがいい。丁度よさこそが日本人が求めるもの_逆にこうでなきゃ人は満足しないんだ。
_具をかきこみながら、豚汁をすする。
「あったまるっ…!うまいっ…!」
具は沢山だけど食材はこだわらなかったみたい。だけどそれがいい。深みがある汁にはシンプルな食材が良く似合う_
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
豪華な食事を嗜んだあとはお風呂。
「一緒に入る〜??」
「も、ももも勿論入りますっ!!!」
あぁ…緊張するっ…!!
「緊張しないでっ!肩の力を抜いて、リラックス!」
「はいっ…!」
風呂の準備をし、湯が沸くのを気長に待つ_この時間は、何をしたっていい。寝たってゲームしたって、勉強したっていい。全ては僕達の思いのままだ。
【お風呂が沸きました】
「んじゃあ着替えよっか!」
「はっ、はい!」
着替えている途中、視線は椿先輩の胸に釘付け。思っている以上にバストが大きくて驚いた。
「はぁ〜気持ちいい…♪あったまる〜!」
「ですね〜…♪」
「後で体洗ってあげようか?」
「い、いいんですか…?」
「いいよ〜!」
どこでも優しさは変わらない。それが椿先輩なのだ_
「では、椿先輩は僕がやります。」
「いいのっ!?」
「椿先輩がやってくれるんですもの、ちょっとした恩返しですよっ!」
「倉川ちゃん優しい〜!」
そんなこんなで風呂のひとときも楽しみ、あっという間に暗き夜_
(椿の部屋)
「なんかもう眠くなってきちゃったね…明日と明後日も一応休みだけど、良かったら泊まる?」
「親からはその点については了承は得てあるので、泊まります!」
「ふふっ、そう来なくっちゃね!んじゃあ四教科は明日明後日にじっくりやろっか!だいぶ眠たくなってきちゃったし_ふぁ〜っ…」
「ですね〜…」
今夜の月はあの時の満月とはちょっと違って何処かが欠けているような気がする。でもそこも綺麗だ_人生みたいな感じかな。
続く