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第十幕 色々あったあとは定期テストと夏大準備

 _4月が終わる頃、嫌な問題が目の前に迫る_


 「もうすぐテスト週間だ_気を引き締めろよ!」


 そう、定期テストだ。前に言った通り、僕は音楽が好きでそれ以外は嫌いだ。九教科じゃないのは唯一の救い。


 「なぁ、聞いたか?あのニュース!」

 「聞いた聞いた!暴力集団「虎と龍」のドン明日島あすしま 零牙れいがって奴が捕まったんだろ?」

 「そうそう!」


 _あすしま、れいが...昨日の人だ。副部長もとい宏斗さんの策略によって罪を償うことになった人_


 「んじゃあ俺、薬持ってたこと警察に言おうかな〜」

 「やめろそれだけは!!!」

 「冗談だよ笑」


 あの時、なんで笑ったんだろう_自分が捕まりそうだったのに、副部長も笑ってたし、自分が介入できるような隙間はないのかもしれないけど、もっと深くまで知っておきたい。


 「...そんなところで何をしてるんだ?部長のお気に入りの倉川?」


 そう言って話しかけてきたのは、昨日の未来の知能を持つ天才だった。


 「あ、君か。ちょっと考え事をしててね_」

 「考え事〜?珍しいね。」

 「君だって珍しいじゃん。自分から声を掛けるなんて_」

 「ずっと浮かない顔をしてたから、様子をちょっと伺っただけだ。これくらい良いだろう?」

 「何をしようと君の勝手だから、これ以上は何も言わないでおくよ」

 「な〜んだ.....素っ気ないな〜!」


 僕は基本、憧れの人以外の人を相手にしない。主役級の人達とは違って、周りの人は特に主張はしないくせにいつだっていい気になっているだけの愚かな感情を抱いているのだから_


 しかし、前にも同じ会話をした気がするけど_気の所為かな?




 「くっ、失敗か。」


 (部室)


 「あ!倉川ちゃん!!」


 _その声は...


 「つ、椿先輩!?」

 「もうすぐテスト週間でしょ〜?ちょっと一緒に勉強しない?受けるのは二回目だとはいえ、苦戦するだろうからさ!」


 _あ、憧れの先輩と一緒に勉強......!?ゆ、夢じゃないよねこれ!!興奮が止まらなくなった。


 「どうしたの?そんな焦っちゃって...」

 「い、いや焦ってなどいませんよ〜!!」


 _焦ってなどいない。一緒にテスト勉強に誘ってもらって嬉しさのあまり興奮してしまっている_それだけだ。


 「あっもしかして、私とテスト勉強できるの嬉しいから、心の中ではしゃいじゃってる??」

 「な、なぜわかった...!?」

 「当たってたんだ!!だとしたら相当嬉しいっ!!私のこと_好きってことでしょっ?」

 「はうっ!?」


 や、やられる...!キュン死にしてしまいそうっ!!


 「き、気絶させちゃった_ちょっとやりすぎたかな...」


 「お、椿じゃん。早いね〜」

 「ひ、宏斗!?」

 「副部長って呼ばないのか?それになんか様子おかしいし、恋煩いか?俺を好きになって今更?お前らしくないぞ。」

 「べ、別にそんなんじゃないし!!でも少しぐらいは思ってるかも......」

 「ダダ漏れなんだよな本音が」


 「副部長と椿じゃ〜ん!やほ〜!」

 「やっほ〜部長!」

 「いやぁ、昨日はホントすごかったねぇ〜!」

 「あんまり大声で言うな、このことは年密にって先生に言われたろ?」

 「あ、そういえば......」


 

 (回想)

 「お前ら!!昨日あんだけ破茶滅茶にやったこと他の生徒たちにぜってぇ言うんじゃねぇぞ!!言ったら拳骨百発だァ!!!!」




 「「あぁ......」」

 「やっと思い出したか_それより、倉川は?」

 「_____気絶させちゃった!」


 「_は?」


 (部活開始)


 _部活が始まっている...?あぁ、キュン死にして色々サボっちゃってたのか...


 「あ、起きた?」


 め、めめめ目の前に椿先輩!?


 「お、起きました!」

 「そんなに緊張することないんだよ〜!そういうとこも可愛いけど!」


 だ、駄目だ......言動一つ一つが好きすぎるッ!!


 「倉川さんっ!今日からは夏大の準備として候補の台本をザーッと読んでいく感じだから、役色々やっていこうね!」

 「わかりました!」


 部長は今日も淑やか且つ穏やかなオーラを纏っている......!


 というかそういえば、あと二ヶ月もしたら夏大か_久しぶりに自分の実力を試せる!どっと興奮が蘇る。あの時の胸が高まるほどの興奮が!!


 「部長〜!発声は〜?」

 「あ、忘れてた!やろ〜発声!」


 (発声中)


 「ロングトーン、高い音十秒行きまーす!せぇのっ!!」

 「「「「「あ〜」」」」」


 _覚えている。この感覚_ロングトーンによって喉が鍛えられている実感、響きが大きくなっていることへの達成感や高揚感、取ってつけた言葉を使っても表現しきれないこの感じ_やはり良い。


 「く、倉川ちゃん_?顔が......」

 「へへへへ〜.......」


 _我を忘れて優越感に浸り、周りをドン引きさせる。嫌な人にとっては嫌なんだろうけど、僕は気にしない......!


 「_えいっ!」

 「痛っ......!」


 先輩にデコピンされてしまった_痛いような痒いような、不思議な感じ_うっかり自分の世界に入ってしまった...不甲斐ないッ_


 「やっぱり私のデコピンじゃないと目を覚まさないよねっ!なんて可愛いやつだ〜」

 「なんだそれ...」

 「感じ悪いっつーかよくわかんないっつーか...まぁいっか。取り敢えず発声終わったから部室に戻ろうぜ〜」

 「だな。」


 椿先輩の純粋無垢で無邪気な笑顔_冷静なときもあるけど、こういうときはいつもあどけなさを感じる。


 「今日どうしたの?なんか調子が優れないみたいだけど_」

 「あ、いえ!なんでもないです!」

 「なら良いけど_」


 (部室)


 「候補の台本印刷してきたから、皆に配ってくね〜」


 今回の夏大台本の候補は十作。大半の部員が選んだバッドエンド青春ストーリー「諸刃の剣」、ベタな恋愛要素があるけど個人的には好みな青春ストーリー「鏡花水月」、喧嘩ばっかの兄弟が体育祭によってちょっと仲良くなるヒューマンドラマ「やってらんね〜!」、何も喋らない蝉と主人公の友情と別れを描いた切なげな物語「蝉文せみふみ」_この四作が特に好きだ。


 「_最初にやるのは諸刃の剣、結構人気なやつだね!」

 「倉川ちゃんは何やりたい?」

 「わ、私ですか?私は......」


 この作品、気に入ってるとはいえ演じたいキャラがほぼ居ない_居るとしたら_この作品で唯一の善人である七尾...かな?


 「強いて言えば_七尾ですね。」

 「七尾、謙虚さがあって見捨てない心がある優しさのある子。いいね!」

 「お前の好みは多種多様だけど、個性が出ている。倉川らしいな_」

 「そ、そうでしょうか_」

 「そうに決まってんだろ〜?」

 

 僕はやりたい役をただこなす_それだけで、個性とかそういうのは気にしたことがない。ただ、この役をやるという意思を決めたのなら、ここでゴタゴタ言う意味はないよねって話になってくる。この台本が夏大の台本って決まったわけじゃないけど_


 「あいつ、最近先輩に可愛がられてね?」

 「仕方ないよ。積極的に先輩たちを救ってるんだから_何もしてない僕達が口出しすることはできないと思うよ。」

 「ま、そうだよな。」


 周りに何を言われようが関係無い。僕は僕だ_信頼できる人を助ける!他の奴らなんて知るもんか!!


 「んじゃあ役決めてくよ〜!やりたい役に手を上げてね〜!」


 テスト勉強に夏大の準備に、この時期は色々と忙しい_今日に限って顧問の先生は、他の先生に呼ばれていなくなっちゃったし_


 「_空、やりたい人〜」

 「はい!」

 「ありがとう!頑張ってねっ!」

 「は、はい!頑張ります!!」

 「_空、千晴...っと。」


 なんとか赤点は回避できるようにしないと、両親にこっ酷く叱られるだろう_


 「次_村石やりたい人〜」

 「は〜い。」

 「お、副部長が脇役やるの珍しいね〜!」

 「そうか?」

 「期待してるよっ!」

 「プレッシャーかけんなっつーの!」

 「ふふっ。_村石、宏斗...っと。」


 このときに問題が起きたら洒落にならない...


 「次、七尾やりたい人〜_」

 「はいっ!」

 「いいね〜!優しい子の役上手いから、期待してるよっ!」

 「頑張りますっ!」

 「ファイトッ!_七尾、倉川...っと。」


 だからこそ努力して、良い点を取って良い結果出して頑張る。今の僕には、それしかできない_


 「よし、役は全員埋まったね!それじゃあ通す準備をして〜!」

 「椿先輩は役やらないんですか?」

 「うん、なんか今日喉の調子が良くなくて_でも、倉川ちゃん達の演技はちゃんと聞く余裕はあるから!」

 「_無理しないでくださいね!」

 「わかってるよっ!」


 それから数分後、僕は思うがままの演技をした。


 『「ねぇ、君は本当にそれでいいの…?」』

『「いいんだよ。これで_」』

『「君が良くても、私は心配だよ…?」』

『「心配?今まで散々裏切られてきた人に心配だなんて、七尾さんはどうかしてる_」』

『「どうかしてるのは西陽さん、君の方。虐められるのが当たり前だと思ってない?」』

『「思ってるよ。だからどうしたの?」』

『「…君はいっつもそうだね、幼い頃からずっと_冷たい…」』

『「自分がどうであれ関係ないでしょ。」』


 主人公である西陽は部長がやってくれている。西陽特有の冷たさは演技とは思えない程で、まるで部長が西陽そのものになったような感じ_そのギャップが堪らない!


 (部活終わり)


 「倉川さんっ、演技上手くなったね!」

 「ほ、本当ですかっ!?」

 「ほんとほんと〜!感情移入をしっかりしてるから、動きとかも役の人そのものって感じ!」

 「そう言ってもらえて嬉しいです!」


 僕は部活外で欠かさず滑舌を鍛えたり、表現の練習や感情移入を極めるために色んな作品を死ぬほど見たり読んだりしている_台本読みの時だって怠らなかった。そして、久しぶりの役_とても楽しい...役になりきれているという実感、長台詞を噛まずに読めたということへの達成感_全部努力の賜物だろう。


 (倉川の家)


 「ふぅ〜_今日も一日お疲れ様、僕_そしてテスト勉強頑張ろう!」


続く

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