表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

第五話 期待と不安の1-1

 入学式も終わり、新入生の俺たちは教員に誘導されて新しいクラスに集められた。

 まだ互いの顔もほとんどわからない教室の空気は、どこか緊張でざらついている。


 担任らしい教師が前に立つと、黒板に名簿を広げて声を上げた。


「さて、この一年剣術第一科担任の緒形央蘭(おがたあきら)だ。

 担当教科は帯刀法学、授業でも顔合わせるからよろしくな!

 それじゃあ、まずは顔と名前を覚えようか。出席番号順に自己紹介してくれ。

 名前と、出来れば一言何かあれば嬉しいぞ!」


 前の席の生徒が立ち上がり、名前を名乗るたびに拍手とも溜息ともつかない空気が流れる。

 誰もが、初めてのクラスでの自分の立ち位置を探している。


 俺はと言えば、順番を待つあいだ、窓の外に咲き残った桜をぼんやりと眺めていた。


 ―――

 何を言えばいいかなんて、本当は決めてない。

 でも、言わなきゃならないことは一つだけだ。

 ―――


 何人かの声をやり過ごし、緒形が名簿を追っている視線が、ついに止まった。


「――黒江。」


 俺の番が来た。

 立ち上がり、前を向く。


「黒江柊弥です。

 刀を持つ意味を、もう一度学び直すために来ました。

 以上です。」


 座席に腰を下ろすと、背中のほうで誰かが何かを囁く声がした。

 それを追う余裕はなかった。


 緒形はあっさりと頷き、次の名前を呼ぶ。


「では――推薦入学生、真田。」


 教室にまた、小さなざわめきが走る。

 壇上での姿がまだ記憶に残っているせいか、隣の紬義も視線を向けた。


 真田玄斗は静かに立ち上がり、ゆっくりと一礼する。


「真田玄斗です。

 この場に恥じぬよう、尽力いたします。

 以上。」


 真田の言葉には、無駄な色はなかったが、不思議とその場の空気を引き締める力があった。


 そして緒形が名簿を追い、もう一人の推薦生を呼ぶ。


「――新免。」


 声に応えるように、教室の後ろの席から椅子が音を立てる。


 短く切り揃えた髪に、どこか狩人のような目。

 笑みの奥に獣じみた鋭さが覗いている。


新免武臣(しんめんたけおみ)

 もっと刀を振るために来た。

 オモシロそうな奴、仲良くしようなぁ。

 以上。」


 本当に同い年かと疑うような眼光が、一瞬、俺のほうを捉えた。

 笑っているはずなのに、背筋にうっすら冷たいものが走る。


 自己紹介は滞りなく進み、緒形が手を叩いて区切った。


「よし、全員終わったな。

 このあとは学年集会がある。時間まで教室内で待機だ。

 寄り道するなよ、先生はちょっと準備してくる。」


 教師が教室を出た瞬間、ざわついていた声がひそひそと別の色を帯びていく。


 俺が席に座ったまま小さく息を吐くと、前のほうから足音が近づいてくる。


「へえ、黒江――だよな?

 噂には聞いてたぜ。父親がやらかしたってな。」


 声の主はさっきの自己紹介で名前を覚えた。

 松永久苑(まつながくおん)――そこそこの家の跡取りらしい。


 後ろに二人、取り巻きが控えている。


「そんな奴がまた帯刀するなんて、よっぽど度胸があるんだな?」


 声が教室の奥に届くより早く、別の声が割り込んだ。


「――うるせえなぁ。ちょっと黙ってろ。」


 !?

 武臣だった。

 獣じみた笑みのまま、松永の肩を雑に除ける。


「今、俺がこいつに用がある。

 邪魔すんなよ、小物。」


 教室の空気が、ひりついた。

 松永が唇を引き結び、取り巻きが目を泳がせる。


 武臣はそんな空気を一切気にせず、俺を見てにやりと笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ