第二話・半 試験を終えた休息
試験が終わって、二日。
久しぶりに寝坊して、昼過ぎに駅前で落ち合う。
「行くか、下見」
紬義のその一言で、柊弥は首を縦に振った。
目指すのは、郊外モールの一角にある、武道具専門店《芳田》。
学生向けの模造刀から、高級認可刀、小手や鍔、特殊な面まで取り揃える。
選抜校や大会出場者に提供されるプロモデルの展示もあり、“帯刀を学ぶ”者なら一度は訪れる聖地と呼ばれる店舗だった。
「こういうの、久しぶりだな」
「俺はけっこう来てたぞ? 兄貴に付き合って、型崩れした鍔の調整頼まれてさ」
紬義は店員に手を軽く振ってから、店内の通路を歩く。
棚には学生用の帯刀具一式が並び、実用の木刀や簡易試斬刀、肩掛け用の刀袋など、想像以上にモダンで整然としている。
その中を抜けて、試験後の高揚と、ほんの少しの不安をまぎらわせるように、柊弥は一本の黒塗鞘に目を止めた。
「……こういうの、買うことになるんだな」
「そうだな。下見っていうか、半分“心の準備”ってやつかもな。落ちてなきゃ、な」
少しいたずらに笑う
「縁起でもない事言うなよ…自信あるわけじゃないんだって」
戯れ合いもそこそこに、紬義が反対側の棚を見て、声を潜めた。
「……おい。棚の陰、誰かガチで見てるぞ。なんか、“吟味”って感じで」
視線を追うと、小柄な少女が一本の汎用模擬刀を手にしていた。
上背は低く、制服の袖は少し余っている。だがその手付きと目線は、職人のような静けさと厳しさを帯びていた。
「ふむふむ……市場ではウチの商品は“売れ行き棚”ですか。人気ポップも貼ってありますし、ふむ。汎用刀なら、まずまずですね」
まるで観察記録をつけるように呟く声は、他人の目を気にしていない。
展示品の鍔の裏まで覗き込み、時折うなずいている。
腰には一般的な刀より一回り小さな脇差が吊られていた。
鍔には何やらタグのようなものが括られているのが見える。
「おい、なんだあの子……」
「知らねぇけど、職人かよ……」
柊弥と紬義は思わず目を見合わせる。
少女は二人に気づく様子もなく、次の棚へと移動していった。