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竜牙剣

「聖鎧の騎士、ロラン・ブローリンよ!」


 《紅凰》が聖鎧の前に単騎で進み出る。

 エルムヴァレーンの軍勢は距離を取り、それを静かに見守っていた。


「我が名はトゥール・アールストレム! お前に一騎打ちを申し込みたい!」


 トゥールが大きく叫んだ。

 

「お前が勝てば、我らエルムヴァレーンは全軍撤退する! 私が勝てば、エリシール殿下と親衛隊らの身柄、それから聖鎧を渡してもらう!」

「ロラン、どうするの?」


 ロランの肩に乗るリリィが不安そうに尋ねた。

 

「……受けましょう」


 ロランが覚悟を決めて応じた。

 

「感謝する!」


 トゥールがロランに向かって謝辞を述べ、《紅凰》が《竜牙剣》を両手で持って構えた。

 

『ロランよ。前にも言ったが、あの剣には十分に気をつけよ』

「はい」


 対して、聖鎧が徒手で構える。

 両者、睨み合い──

 先に《紅凰》が仕掛けた。

 

「炎撃!」


 《紅凰》が《竜牙剣》を聖鎧に突きつける。

 《竜牙剣》が瞬く間に炎に包まれ、その炎がそのまま聖鎧に伸びる。

 迫りくる火柱を、聖鎧が右腕を大きく振って強烈な風を発生させ掻き消した。

 その間に《紅凰》が聖鎧に走り寄り、《竜牙剣》を横薙ぎ一閃。

 だが今まで立っていた場所に聖鎧はいなかった。

 すでに聖鎧は《紅凰》の後方に移動しており、右拳を引いている。

 

「くっ!」


 慌てて《紅凰》が転身し、聖鎧が距離を保ったまま右拳を打ち出す。

 突如、猛烈な竜巻が聖鎧の拳から発生して《紅凰》に怒涛のごとく押し寄せた。

 《紅凰》が《竜牙剣》を正面に構えて竜巻を迎えうつ。

 《竜牙剣》の刃が、燃えさかる炎さえかき消すほどの暴風を、容易く両断する。

 

「無駄だ!」


 《紅凰》が《竜牙剣》大きく振りかぶり、大上段に構えて、聖鎧に向かって足を踏み出す。

 しかし聖鎧はまたも一瞬で移動していた。

 再び《紅凰》の後ろにである。

 聖鎧が先ほど同じように右拳を虚空に打ち出し、竜巻を《紅凰》に放つ。

 

「何度も同じ手を!」


 《紅凰》がその場で転身して《竜牙剣》で竜巻を斬り裂く。

 そして、やはり聖鎧の姿がそこになかった。

 《紅凰》が確信を持って後ろを振り返る。

 トゥールの視線の先で、聖鎧が右拳を繰り出していた。

 

「ええい、しつこい!」


 迫り来る竜巻を両断し、トゥールが叫ぶ。

 《紅凰》が《竜牙剣》を高らかに掲げた。

 《竜牙剣》の剣先に、大気から生じた炎が、球状に集まっていく。

 瞬く間に炎の球体は聖鎧の五倍の大きさに膨れ上がった。

 

「炎砲!」


 《竜牙剣》から巨大な火炎の砲弾が発射される。

 当たれば砦でも吹き飛ぶ大火力である。

 だがそれが聖鎧に直撃することはなかった。

 またしても聖鎧が目にも留まらぬ速さで動いており、大火球は何もない場所に着弾し、轟音と共に弾けた。

 

『ロラン、もうよいぞ』


 幾度目かの攻防の末、フリクセルが発する。

 

『両腕を使え』

「はい!」


 聖鎧が両手を握り合わせ、前に突き出す。

 すると先ほどの数倍の威力の竜巻が発生し、《紅凰》に襲い掛かった。

 

「こしゃくな!」


 これまでと同様に《紅凰》が竜巻を両断しようと《竜牙剣》を正面に構えた。

 だがあまりにも苛烈な風圧力に《紅凰》は《竜牙剣》ごと後方に押しやられていく。

 凄まじい風と熱が《紅凰》を覆いつくす。

 すると突如、《紅凰》の身体が風に巻き上げられ、一瞬の内に遥か上空に放り投げれれた。

 

「──くっ!」


 《紅凰》が空中で体勢を立て直そうと必死にもがく。

 だが、地上まで恐ろしく距離があった。

 空を飛ぶ手段を持たないトゥールには、もう打つ手がなかった。

 

「やはり、敵わなかったか……」


 トゥールは己の最後を悟り、静かに目を閉じた。

 けれど落下の衝撃はいつまでたっても訪れなかった。

 怪訝に思い、トゥールが目を開けると、機甲の外の景色はひどくゆっくりと流れていた。

 聖鎧が風を操って《紅凰》を無事に地上に帰還させていたからだった。

 

「──参った。私の負けだ」


 地上に戻ったトゥールが開口一番にそう宣言した。

 これで全て解決する。

 ロランが胸をなでおろしたその時、

 

『ロラン! 避けよ!』


 突然のフリクセルの声に、ロランは本能的に聖鎧を動かした。

 聖鎧は雷光のような速度でその場を離れ、何者かの操る機甲の腕が、空を切った。

 

「くそっ! 気付きよったか!」


 純白の機甲、《天奏》がそこに立っていた。

 

「フォシェル殿下!? 勝負はつきました! ロランの勝ちです!」


 トゥールが暴挙に出た主君に対して、思わず非難の声を上げる。

 決闘は騎士にとって侵すことの許されない神聖なものである。

 

「ふん、負け犬が吠えおって。みっともない」

「殿下? …いや、貴様はオロフか!」


 《天奏》の中にいたのはオロフであった。

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