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火の手

 所々で火の手が上がるルンベック大森林の上空に聖鎧が浮かんでいる。


『ひどい……』

『何と愚かな……』


 眼下の森のありように、リリィと大精霊フリクセルが呻く。

 ロランも苦りきった表情で、聖鎧の中からその惨状を見下ろしていた。

 

「とにかく、まず火を何とかしよう!」

『そうね!』


 ロランの肩でリリィが同意する。

 リリィにもロランと同様に、大精霊フリクセルの視界が共有されていた。

 周囲を見回し、火の勢いの最も強い場所を見つけ、ロランたちがそこに降り立つ。

 するとそこに数騎、エルムヴァレーンの機甲騎士たちの姿があった。

 

「炎撃!」


 機甲騎士が万象術を用いて、森の木々に火を放つ。

 

「やめろ!」


 聖鎧がその機甲騎士を蹴り飛ばした

 

「──エルフの機甲か!?」


 別の機甲騎士たちが聖鎧の方に向き直る。

 どうやら彼らは聖鎧については詳しく聞かされていないようだった。

 

「邪魔をするな!」


 機甲騎士が手にした剣で聖鎧に斬りかかる。

 聖鎧が高速で右拳を突き出すと、そこから竜巻が発生して機甲騎士たちを吹き飛ばした。

 そして、生じた竜巻をそのまま燃えさかる木々に向ける。

 風を受けた火はほんの一瞬だけ激しさを増すが、木々を薙ぎ倒さんばかりの猛烈な風が、途端に全てを消し去っていった。

 その場の消火を終えると、ロランはまた別の出火地点に素早く移動して、次の消火活動を行った。

 これを幾度か繰り返し、ルンベック大森林の火事は半刻もかからぬ内に治まった。

 

「何が起こっている?」


 ルンベック大森林の手前──エルムヴァレーン王国軍が陣を敷く場所に設えられて天幕の中で、フォシェルが呆然として呻く。

 少し前、騎士団に命じて大森林に火を放った。

 しかし、大森林は未だ健在である。

 

「騎士団は一体何をやっておるのだ!」


 フォシェルの側にいたオロフが目の前のトゥールに泡を飛ばして叫ぶ。

 

「……確認して参ります」


 言ってトゥールが天幕を出ようとしたその時。

 耳をつんざくような轟音があたりに響いた。

 驚いて、トゥールとフォシェルたちが天幕を出る。

 状況を確認するため周りを見回すと、機甲騎士達の陣形が大きく崩されていた。

 それは例えるなら、飛んできたいくつもの巨大な岩石に当たって、吹き飛ばされたかのような惨状だった。

 確かめるまでもなく、聖鎧の力によるものだ。

 トゥールは強く歯噛みする。

 エルムヴァレーン王国軍は騎兵が五千騎。

 機甲が五百騎。

 《紅凰》と《天奏》もここにあった。

 だが、機甲騎士は既にその大半が戦闘不能になり、騎馬兵は恐慌状態にあった。

 エルムヴァレーン王国軍はトルスティン王国へ進軍する前に、実質半壊してしまった。

 それもほんのわずかな時間で。

 トゥールは聖鎧の姿を探し、ルンベック大森林の入り口付近にその姿を見つけた。

 聖鎧は悠然とトゥールらのもとに歩いてきている。

 

『まったく。人族はいつになっても戦争をやめおらんの。よくもまぁ、飽きぬものよ』


 大精霊フリクセルがため息混じりに漏らした。

 リリィもロランの肩でうんうんと首を縦に振っている。

 ロランは何も言わずフリクセルの言葉を噛み締めていた。

 一方で、

 

「フォシェル王子殿下。お願いがございます」


 トゥールがフォシェルに頭を下げる。

 

「申せ」

「はっ。私めにこの場をお任せいただきたく」

「……如何に?」

「私めが聖鎧の騎士と一騎打ちをし、仕留めてご覧に入れます」

「ばかを申せ! 何を勝手なことを! ここは全軍をもって──」


 オロフがすかさず口を挟んだ。

 

「そのようなことをしても、無駄に兵を失うだけだ」


 眼光鋭くトゥールがオロフを睨む。

 

「う……」


 オロフがトゥールの迫力に負けて、押し黙った。

 トゥールは聖鎧の強さを身をもって知っている。

 たとえ全軍をもってしても聖鎧には敵うまい、とトゥールは半ば確信していた。


「任せてよいのだな?」

「はっ!」

「……分かった。行ってまいれ」

「御意に!」


 トゥールが、彼の専用機甲《紅凰》に乗り込んだ。

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