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万聞

 時をほんの少し(さかのぼ)って。

 カールション子爵邸の二階の廊下をオットが歩いていた。

 この階に、オットたちに宛がわれた客室があった。

 怪我をした膝は少しずつ快復に向かっており、すでに歩くぶんに支障はない。

 オットは先ほど、イェートからエリシールの見張りを指示された。

 どうやら遺跡で自分達と戦った少年が邸宅のすぐ前までやってきているらしかった。

 

「まさか、あれで生きていたとはな……」


 一人ごちる。

 オットは自分の目で胸を刺され、その後深い穴に落とされる少年を見ていたのだ。

 信じられなくとも無理はない。

 

『おれ達が(あや)うくなったら、王女を人質にしろ』


 イェートはオットにそう言い残して、ステンとオルソンと共に外へ出て行った。

 遺跡で立ち会った少年は、確かに手強かった。

 外でその相手をするのに比べれば、エリシールのお()りなどは楽な仕事であった。

 階段を上がり、三階にたどり着くと、エリシールの部屋へ続く廊下に出る。

 すると、エリシールのいる部屋の扉のすぐ(そば)に、その男は立っていた。

 男は門衛の出で立ちをしていた。

 

「ん? 何だお前は?」


 オットが(いぶか)しげに眉をひそめる。

 男にどことなく違和感を覚えたからである。

 オットは警戒しながら男に近寄った。

 男はオットが見たことのない、ひどく印象の薄い顔であった。

 

「ああ、これは……あなたが、オットさんですか?」


 門衛姿の男がオットを見て口を開いた。

 

「……そうだが?」


 オットの手がさりげなく剣の柄にゆっくりと伸びていく。

 

「それは、それは……」


 門衛姿の男が納得したように何度も頷き──唐突に右足で蹴りを繰り出す。


「──ぐおっ!」


 左膝に鋭い蹴りをくらい、オットが前かがみになって呻く。

 その直後に門衛姿の男が隠し持っていた短剣で、オットの喉を切り裂いた。


「──!」


 悲鳴も上げられず、オットはその場に倒れた。

 徐々にその目から生気が失われていって、彼は絶命した。

 

「やっぱり、情報は力だね」


 門衛姿の男が満足そうに呟く。

 オットの膝の怪我は前もって聞いていたとおりだった。

 

「じゃあ、次は執務室かな」


 そこにオロフの不正や汚職の証拠があるはず。

 門衛姿の男は軽やかな足取りでそこへ向かった。

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