王女の奮闘
エリシールは狼狽えていた。
ロランが生きていた。
それは自身のこれまでの人生で、一番嬉しい出来事だった。
だが、このままではロランが殺されたしまう。
今度こそ本当に、ロランを失ってしまう。
嫌だ。
それだけは絶対に嫌だ。
「リリィ! すぐにロランのもとへ行ってください!」
エリシールがなりふり構わず叫ぶ。
しかしすぐに気が付く。
一体どうやって?
窓も扉も固く閉ざされている。
見えないとはいえ肉体を持つリリィが、この部屋から出ることは出来ない。
「──っ」
エリシールは自らの拳を躊躇なく窓の硝子に打ち付けた。
何かを素手で思い切り殴ったのは始めてだったため、途端に強烈な痛みが手にはしる。
それでも硝子には傷一つ、つけられなかった。
エリシールは手の痛みを無視して、ひたすら窓の硝子を両拳で殴り続けた。
何度か殴るうち、その手を誰かが止めた。
リリィだ。
(なぜ止めるのですか──)
ロランの一大事である。
止める理由など、あろうはずがない。
不思議に思いエリシールは自分の手を見つめた。
いつの間にか両手とも皮膚がやぶれて血まみれになっていた。
「──ううっ!」
あまりの激痛にエリシールが呻く。
白雪のような手が見るも無残に傷ついていたが、そんなことは今の彼女にとっては些事にすぎなかった。
部屋を見回し、何か自分の拳の代わりになるものを懸命に探す。
目に留まった椅子を持ち上げようとするが、非力な彼女では腰の高さまでしか上がらなかった。
仕方なくエリシールは椅子の二本の脚を両脇に抱えて、さらに二本の脚を手に持ち、椅子の背を前に向けて窓に突進する。
椅子の背の先端が硝子に激しくぶつかり、その衝撃音が部屋中に鳴り響いた。
しかしやはり硝子を割ることはできなかった。
「くぅっ!」
両腕にはしる痛みに耐えきれず、エリシールは椅子を床に落とした。
一瞬絶望に囚われかけるが、これで諦めるわけにはいかない。
今度は扉に走って行き、その勢いのまま肩から扉にぶつかる。
堅い木製の扉は体重の軽いエリシールではびくともしなかった。
それでもエリシールはやめなかった。
二度、三度、四度と繰り返す。
五度目を飛び出そうとしてやはりリリィに止められた。
「……」
エリシールは自分の無力さに大きく肩を落とし、再び窓から外の様子を確認する。
外ではイェート、オルソン、オットの三人が、剣を手にしてロランに迫っていた。
エリシールは恐怖に全身を震えさせた。
「だめ……やめてください。お願い……やめて……やめて……」
胸が苦しい。
またロランに会うことが出来るというのに。
また彼の笑顔が見れるというのに。
また自分は何もできない。
(ロラン……ロラン……)
エリシールは滂沱の涙を流しながら心の中で必死にロランの名を呼び続けた。




