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再戦

 カールション子爵邸の正門から、数メルム(数メートル)離れた場所に、ロランは立っていた。

 外套はまとっているが頭巾はかぶらず、人目をはばかることなくその顔を(さら)している。

 彼の周囲には他に誰もおらず、聖鎧もここにはなかった。

 

「おい! 何だお前は!」


 二人の門衛の内、片方の男がロランに気付いて問いかける。

 門衛は胸と胴が一連に繋がった鋼鉄製の鎧と、篭手と脛当てを身に着けて、右手には二メルム(二メートル)の長さの槍を持っていた。

 

「エリシール王女殿下を帰してもらいに来た」


 ロランがその目的をはっきりと口にする。

 途端に門衛たちの顔が強張った。

 

「き、貴様っ!」


 門衛が槍を構えようとするが、機先(きせん)を制したロランが、驚異的な速度で相手の懐に入り──鎧で護られていない──股間を長靴のつま先で蹴り上げる。

 ロランの長靴には底と先端に鉄板が仕込まれているため、つま先が(かす)っただけでも相当な威力であった。

 

「──!!」


 声にならない声を上げ、門衛がその場に倒れて悶絶した。

 その間にロランが剣を鞘から抜く。 

 すぐにもう一人の門衛がロランに向かって槍を突き出した。

 槍の穂先をロランは最小の動きでかわし、槍の柄を左手で掴む。

 

「くっ! このっ!」


 門衛が槍を引こうとするが、槍は微動だにしない。

 門衛の男はロランより体が大きく、腕も太く、何よりも両手で槍を掴んでいる。

 だのに、どれだけ力をこめようとも、槍をまったく動かすことが出来ないでいた。

 目の前の、己よりも小さな少年のどこにそんな力があるのか。


「ばかな……なぜだ……」

 

 門衛が驚きの声を漏らす。

 しかし、同様にロランもまた驚いていた。

 先ほどの踏み込みといい、今の槍を掴む膂力といい、ロランはこれまでにない力を発揮していた。

 

(もしかして、これも大聖樹の力……)

 

 理由など他には考えられない。

 早々に得心すると、ロランは槍の柄に沿ってあっという間に相手に詰め寄り、剣の柄頭で門衛の顎を打ち抜いた。

 悲鳴を上げることさえ出来ず、二人目の門衛が地面に崩れ落ちた。

 門衛たちを瞬く間に無力化した後、ロランが自らの手でゆっくりと鉄門を押し開く。

 ちょうどその先に、本館の玄関口が見えた。

 門からの距離はおよそ三十メルム。

 ロランは玄関口の次に、三階の左端の部屋の窓を見上げた。

 ダニエレの情報によれば、そこにエリシールが囚われているはずである。

 ロランが子爵邸の敷地に一歩足を踏み入れた時、本館の玄関の扉が慌ただしく開かれた。

 館内から傭兵たち──イェート、オルソン、ステンが出てくる。


「よぉ、ロラン。よく生きていたな」


 イェートがロランに向かって気軽い口調で言う。

 イェートはその事実に心底驚いていたが、それらしいそぶりは見せなかった。

 

「けっ、せっかく拾った命をまた捨てにきやがったのか。ご苦労なこったな」


 ステンが忌々しげに吐き捨てた。

 ステンのロランへの恨みは相当に根深いものであった。

 最後の一人、オルソンは何も言わずにロランを睨んでいた。

 

「イェートから聞いたぜ。お前の変てこな力は妖精のもんだったってよ」


 ステンが残忍な笑みを見せる。

 

「その妖精は今はお前の側にゃいないっていうじゃねえか」

「……」


 ロランは無言でイェートたちを見据えた。

 

「それでおれたちに勝てると思ってんのか? まったく、おめでてぇ野郎だぜ!」


 ステンが声を上げて笑う。

 イェートも薄く笑みを浮べているが、その目は油断無くロランの動きを観察していた。

 

「……」


 ロランは黙ったままゆっくりと──後退を始めた。

 

「はっ、ここまで来て逃げるのかよ! ふざけるんじゃねぇ! 俺がもう一度ぶっ殺してやる!」


 虚仮(こけ)にされていると感じたステンが、怒りをあらわにしてロランに向かていく。

 イェートとオルソンもすぐにステンの後に続いた。

 

 ロランは三人を視界に収めつつ、緩慢(かんまん)な足取りで後退を続ける。

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