表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/35

対面

 ロランたちの決起の集いの翌日。

 既に日は落ち、宵闇に染まったエルムヴァル城。 

 その城門前に、ヘルゲたちエリシールの親衛隊が堂々と現れた。

 王城の衛兵たちはその行動に驚きながらも、すぐに彼女たちを捕らえた。


 エルムヴァル城、謁見の間。

 三百人以上は集まれるであろう大きな広間は、天井も高く、格調高い深紅の絨毯が、中央の通路に敷かれている。

 壇上の玉座にフォシェルが座り、すぐ側には宰相であるオロフと騎士団長のトゥールが立っている。

 ヘルゲと親衛隊士たちは武器を奪われ、手枷をつけられて、フォシェルの前に引っ立てられた。

 この場にはその他に、武装した近衛兵二十人と騎士団員十人が控えていた。 


「ふん、よくもぬけぬけと戻ってこられたものだ」


 フォシェルが自由を奪われて(ひざまず)かせられたヘルゲを見下ろす。

 その顔を不機嫌に歪め、わざとらしく鼻を鳴らす。


「己の愚昧(ぐまい)さをようやく悟ったか。それで、肝心のエリシールはどこだ?」


 フォシェルの問いかけに、ヘルゲは涼しい顔で答えた。

 

「そこの宰相閣下にお尋ねになられては?」


 ヘルゲの言葉にフォシェルが怪訝(けげん)な表情を浮かべ、(かたわ)らのオロフを見やる。

 それを受け、オロフの表情がみるみるうちに青白いものに変化していった。

 

「……オロフよ、どういうことだ?」


「い、いえ、私は何も知りませぬ。奴のたわごとでございます」


 狼狽してしどろもどろで言うオロフに、フォシェルは懐疑(かいぎ)の念を抱く。

 

「何か知っているならこの場で申せ。隠し立てするならば、ためにならんぞ」


「とんでもございません。私が殿下に対して隠しごとなど、するはずがありません」


 首を激しく左右に振ってオロフが(べん)ずる。


「……本当であろうな?」


「も、もちろんでございます!」


「……」


 仕方なく、フォシェルは再びヘルゲに目を戻した。

 

「エリシールを連れてきたのではないのなら、お前たちはここへ何をしに戻ったのだ?」


 フォシェルがおもむろに胸を張って、嘲笑を浮かべる。

 

「よもや、私に下って再び──」」

「この国をあるべき姿に戻すため」


 フォシェルの(げん)に、ヘルゲが自らの声を重ねた。

 不敬な振る舞いに、騎士や衛兵の何人かが足を一歩踏み出す。

 フォシェルが軽く手を挙げ、それらを治めた。

 

「あるべき姿とな? それはどういったものであるか?」

「少なくとも簒奪者(さんだつしゃ)が玉座に座る今の状態ではない」

「簒奪者とは私のことか? 私は正当な王位継承者であるが?」

()()()()()()()殿()()()()()、であるがな」


 ヘルゲの言葉にフォシェルがすっと目を細めた。

 

「……エリシールは、まだ幼い。それに政治などはあいつには向いておらん」

「ユーハン国王陛下は、そうは思っていらっしゃらない」

「貴様に何が分かる? 陛下も、エリシールを買いかぶりすぎているのだ……」

「……それが理由か?」


 ヘルゲが底冷えのする声で発する。

 

「そんな理由で貴様は──貴様らは国王陛下とエリシール殿下にかようなまねを……」


 ヘルゲは獣のように獰猛な目でフォシェルを睨みつけた。


 ◆


「いくつか分かったことがある」


 情報屋のダニエレがそう言って切りだした。

 ジウの機甲格納施設の一角にある部屋の中。

 そこに、ロラン、ヘルゲ、ジウ、そしてダニエレの四人が集まっていた。

 

「まずはエリシール王女殿下の居場所だけど、貴族居住区のカールションの居邸で間違いない」


 ダニエレがロランたちの顔をぐるりと見回す。

 ≪万聞≫と呼ばれる彼の能力を疑う者は、この場にはいない。

 皆はダニエレと目を合わせ、頷きを返す。


「……やはり、か」


 ヘルゲは悔し気に唇を噛んだ。

 今すぐ駆けつけていってオロフを八つ裂きにしてやりたかったが、鉄の意志で堪える。

 ジウも眉間に深いしわを刻んで拳を震わせ、ロランは静かに胸の内に怒りの炎を燃やしていた。

  

「警備はそれほど厳しくはないね。もともと貴族居住区は治安がいいから。何かあれば、警邏もすっ飛んで来るし」


 ダニエレが腕組みをし、続ける。


「子爵邸は高さ三メルムほどの鉄柵に囲まれていて、正面の門には門衛が二人。本館には玄関口の他に、使用人が使う勝手口があるけど、中に入れる門は正面のこれ一つだね。それから、番犬の類はなし」


 説明はさらに続く。

 

「加えてロランが言っていた傭兵が四人。なかでもイェートは相当腕が立つ奴だね」

 

 イェート・ヘルムドソンは名の通った傭兵で、その実力も同業者たちの間でも高く称されていた。

 ロランは自らを死の淵に追いやった強敵の姿を思い出し、気を引き締めた。

 

「明日の夜は、オロフは登城していて邸宅にはいない。王女殿下は三階の一室に軟禁されている。もちろんどの部屋かもちゃんと分ってるから安心して。──こんなところかな」


 ダニエレの見事な手腕に、他の三人が瞠目する。

 わずかな時間で、彼はしっかりと役目を果たしてくれた。

 

「それからユーハン国王陛下に関することなんだけど……」


 ダニエレはここで一呼吸おき、

 

「どうやら薬を盛られているようだ」

「……それは、奴らの仕業か?」


 ヘルゲが怒りの形相でダニエレに尋ねた。

 

「現時点で一番怪しいのはオロフだね。奴はアヴィラ帝国と深い繋がりをもっているみたいだ。オロフは個人でアヴィラ帝国の大使と何度か密会していたらしい。目撃情報も多いからこれは確かだろうね」

「アヴィラ帝国? なぜここでそんなものが?」

「陛下に使われた薬は、帝国の間者(かんじゃ)がよく使うものだそうだ」

「何だと! それは間違いないのか?」

「薬に詳しい人間に聞いたところ、その可能性が高いと言ってたね」

「それは……フォシェルも係わっているのか?」

「先日アヴィラ帝国皇帝よりフォシェルに贈り物が届けられた。帝国産の機甲だそうだ。それを運んできたのが件の大使さ」


 ダニエレがあごに手をあてて言う。

 普段の柔和な目つきが、鋭さを帯びる。

 

「おそらく、フォシェルも少なからず係わってると見るべきだろうね」

「──まさか……この度の一件は全て帝国の謀略(ぼうりゃく)なのか?」


 ヘルゲの表情が驚愕に染まる。

 ロランもジウも目を見開いていた。

 

「そこまではまだ、はっきりしていない」


 ダニエレがゆっくりと(かぶり)を振る。

 

「はっきりしているのはオロフが帝国大使と親密であること、国王陛下に帝国のものとおぼしき薬が使われたこと」


 言いながら指を折っていく。

 

「それから帝国がフォシェルと深い関係を築こうとしていること、かな。確かに帝国にとっても(えき)があるように思えるね」


 アヴィラ帝国。

 このヘストレム大陸における最大の軍事国家である。

 ここエルムヴァレーンとは今のところ、国同士の関係は浅い。

 

「まぁ、どちらから持ちかけたのかは分らないが、状況を見る限り、国王陛下の今のご様子はオロフらのやったことだろうね」


 最後にそう言って締めくくった。

 ダニエレからもたらされた情報をふまえ、ヘルゲは今後の方針をかためていく。

 決戦は目の前に迫っていた。

 

 ◆


「国王陛下が倒れられてから、我らはあらゆる手を尽くして陛下のお身体を治そうと努力した。言いがかりはよしてもらおう!」


 フォシェルの側に立つオロフが口角泡(こうかくあわ)を飛ばして叫ぶ。

 激しい剣幕だったが、ヘルゲは微動だにしない。

 

「……もうよい。こやつらを牢へ連れて行け。明日処刑する」


 フォシェルが近衛兵たちに命じる。

 近衛兵たちはヘルゲ達を囲むように近付いた。

 そこへ謁見の間の出入り口に別の兵士が姿を見せた。

 

「し、失礼します。フォシェル王子殿下に火急の報告がございます」

「……申せ」


 兵士は謁見の間に入るとすぐにフォシェルの前で跪く。

 

「はっ。報告申し上げます。ただ今、王都各区において多数の機甲による騒乱が起こっております」

「そのようなこと、街の警備隊に当たらせよ」

「そ、それが、ことは機甲によるもののため、警備隊では対処できず、騎士団に応援の要請がきておりまして……」

「……貴様らの仲間の仕業か?」


 フォシェルがヘルゲを睨みつける。

 

「……」


 フォシェルの問いかけにヘルゲは無言で返した。

 

「いかがいたしましょう?」

「……アールストレム団長。聞いたとおりだ。行って鎮めてまいれ」


 息を一つ吐きフォシェルがトゥールに命じる。

 

「よろしいのですか?」


 トゥールがちらりとヘルゲたちを見やる。

 

「そやつらはもう何もできまい。反乱の芽は全て摘み取るのだ」

御意(ぎょい)に」


 トゥールがフォシェルに一礼し、この場にいた騎士たちを引き連れて謁見の間を出て行った。

 

「何をしておる! そやつらをさっさと連れて出て行け!」


 フォシェルがまごついていた近衛兵たちに向かって叫ぶ。

 近衛兵たちは慌ててヘルゲらを連れて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ