決起
翌日の昼時。
エルムヴァレーンの王都エルムヴァルの正門前に長い人の列ができていた。
「よし、次の者。外套を脱いで顔をよく見せろ」
門衛が列の先頭に立つ行商人ふうの男に声をかける。
行商人ふうの男は愛想よく頷き、言われるまま外套を脱いで顔をさらした。
門衛は手元の紙束と行商人ふうの男を見比べながら、
「ふむ。問題ないだろう。行ってよし」
そう告げて、行商人ふうの男と彼の荷車を街へと通した。
「では、次の者」
それは、朝からここで幾度となく繰り返されている光景であった。
エルムヴァルは古くから商業が盛んで、商人や旅人などの出入りも非常に多い。
そのため、門衛による審査などは普段からも行われており別段珍しいものではなかったが、今朝から続くこのやりとりは常よりもかなりの念の入れようだった。
「よし。それでは、次」
次に呼ばれたのは、皆が濃紺色の外套をまとい、頭巾を目深にかぶった一団だった。
「では、外套を脱いで顔を見せろ」
門衛の言葉に従い、全員が頭巾に手をかける。
そこで──
「うあぁぁぁぁぁ!!」
一団の後方から悲鳴じみた男の声が上がった。
その直後、荷車にこれでもかと積み上げられていた荷物が、正門前の路に盛大にばらまかれた。
「おい! 一体何をしている!」
荷車の持ち主らしき男に、門衛が怒鳴りつける。
「いやぁ、すいません」
この男も風体からして商人のようであるが、その顔には何一つ特徴らしきものがない。
男は門衛に何度も頭を下げた。
「しっかりと縛ったつもりだったんですが、縄が切れちまいまして……」
男の言うとおり、荷物を縛っていた縄は綺麗に切れていた。
「いいから、早く片付けろ!」
門衛が荷車の持ち主に詰め寄る。
「はい。ですが、この量を一人で片付けるのにはえらく時間がかかりますんで、ちょっと手伝ってもらえないですかね」
「ふ、ふざけるな! これはお前の問題であろう!」
「仰るとおりです。けれどもしばらくの間、ここでこうして路を塞いじまうと、後の者もここを通れないじゃないですか」
男の言葉で、門衛が列を見やる。
こうしている間にも人は増え続けていた。
「旦那。何もただ働きさせようってんじゃありません。お礼はきっちりとさせてもらいますよ」
そう言って、男が懐から布袋を取り出し、軽く振って音を鳴らす。
「……仕方ない。そこで待っておれ!」
門衛は男に言い残し、門の方に大またで歩いていった。
しばらくすると、門衛が他の仲間たちを引き連れて男のところに戻り、全員で荷物を片付け始めた。
濃紺色の外套をまとった一団がいつの間にか消えていたことには、誰も気付かなかった。
◆
正門前での出来事から数刻が過ぎ、街には夜が訪れていた。
無事にエルムヴァルに到着したヘルゲたちを先行していたロランが迎えると、すぐさまこの街での新たな拠点に向かった。
そこは機甲闘士であるジウが自分の機甲を格納するために利用している施設だった。
エルムヴァルの郊外に建てられたこの施設には、ヘルゲたちより先にかなりの人数の男たちが集まっていた。
ジウと同じ機甲闘技場の闘士たちである。
その中には先日ジウと闘ったトマゾ・キーンの姿もあった。
そこにロランとヘルゲたちが現れ、闘士たちはその姿を見て様々な表情を浮べた。
「四年ぶりだな、ジウ」
ヘルゲがジウを見つけて、近付いていった。
ヘルゲもまた長命種特有の時間感覚を持っており、四年程度は彼女にとって大した時間ではなかったが、ジウとの再会にはどうしてか懐かしさを覚えた。
「ああ。さすがエルフ。いつ見ても全然変わりゃしないね」
ジウが親しげに応じる。
「……ようやく決心してくれたか」
ヘルゲが周りの状況を見やってそう判断する。
ジウはヘルゲを見据えて、しっかりと頷いた。
そこへ、
「ヘルゲ殿下、お久しぶりでございます」
闘士の男が一人進み出てヘルゲの前に跪く。
「ハンマル元男爵の息子、ダグ・ハンマルでございます。前に一度、ヘルゲ殿下に剣の手ほどきをうけたことがございます」
「そうか。お前も……息災とはいかぬようだな……」
ダグの姿やようすから、彼の生きざまを察する。
「はい。わが男爵家も憎きオロフによって取り潰されました。残ったのはわが身一つのみ」
ダグの声からは悲壮さや自身への憐憫は感じられない。
その声から伝わるのは強い意思だった。
「この度はかような機会を与えていただき誠にありがとうございます。わが一命をかけて任を果たす所存にございます」
ダグの言葉を契機に更に何人もの闘士がその場で跪き、ヘルゲに礼をとる。
徐々にそれが広がり最終的にこの場の全ての闘士がヘルゲに跪く。
ヘルゲのすぐ隣のジウも含めて。
「ああ。皆で共に戦おう。腐った連中の手からこの国を取り戻すのだ!」
ヘルゲが皆を見回して高らかに叫んだ。
「「おおっ!」」
その場にいた者たちが心を一つにして声を上げた。




