復讐心
ジウはひとり酒場を出て、街灯に照らされた夜の大路を歩きながら、先ほどのやりとりを思い返していた。
目の前に現れた、聖鎧の騎士だという少年。
その少年が、昔日に交わした、ヘルゲとの約束の言葉を口にした。
それはジウが、長年待ち望んでいたものだった。
ようやく、あの者に積年の恨みを晴らす時がやってきたのだ。
(──お父様……お母様……)
今は亡き父と母の顔が、脳裏に浮かぶ。
そして同時に、あの男の野卑な笑い顔も。
(──っ!)
突然の激しい動悸と息苦しさに、ジウはたまらず衣服の上から右胸のあたりを押さえた。
そこには、あの男につけられた傷のあとが、今も残されている。
ジウは奥歯を噛みしめて苦しみに耐え、路の先をまっすぐ見据えた。
ジウ・ヴェステールは、もともとエルムヴァレーンの貴族、ヴェステール子爵家の息女だった。
ヴェステール子爵は領地を持たない宮廷貴族であったが、エルムヴァレーン王国の政権の中心となる、諸侯議会の一員でもあった。
他に兄弟はなく、一人娘であるジウを、子爵と夫人は心から愛し、彼女もまた父と母を心から愛していた。
ジウは、誰もが羨むような幸せな幼少時代を、この国で過ごした。
だがヴェステール子爵家は、今はもうない。
十年ほど前に、ある男の奸計により、取り潰しの憂き目にあっていた。
当主のヴェステール子爵と夫人は、いわれのない罪を着せられ、処刑された。
残された娘は政敵であった男のもとに侍女として迎えられ──おぞましい辱めを受けたのである。
あれからほぼ十年──
歩を進めながらジウは考え続けていた。
憎き相手は、今やこの国の宰相となり、騎士団とあの《紅き獅子》を味方につけていた。
一方で、今では自分は機甲闘技の無敵の覇者である。
だがそれでも、《紅き獅子》と彼の機甲《紅凰》に自分が勝てるとは到底思えなかった。
それほどまでに、あの男は手強い。
力ある彼女であればこそ、力量の差を確かに見抜いていた。
十年よりもさらに前のことであるが、かつては自分も無垢な少女の頃、他の貴族の娘たち同様に、彼にほのかに憧れを抱いたこともあった。
学友に誘われて訪れた王城の練兵場で、たまたま見かけた彼の姿は、とても眩しかったことを朧気ながらにおぼえている。
この国で当代最強といわれる彼を、もしも倒せる者がいるとすれば、それは──
先ほど出会ったロランの姿を思い返す。
頭巾を下ろしていたため、しっかりと顔は見れていないが、清廉で力強い目をした少年だった。
(ヘルゲも大したもんを見つけたね。聖鎧の騎士か──)
ジウが決然とした表情を浮かべる。
(その力、はたしてどれほどのものか、見せてもらおうか)
彼女は力強い足取りで、そのまま大路を歩き続けた。




