大使との密談
エルムヴァル城内の賓客室。
オロフは長四角の卓子を前にして席に着き、アヴィラ帝国大使の二人が、それと向かい合うようにして座っている。
魅惑的な黒髪の美女と怪しげな仮面の男。
遠方よりやってきた大使たちは、あらためて見ても、ずいぶんと奇妙な取り合わせであった。
卓上には四人分の銀杯と葡萄酒の入った甕が置かれているが、先ほどまでこの場にいたフォシェルは、今は政務のため席を外していた。
「上手くやってらっしゃるようですね」
帝国大使の美女──ルートが艶やかに微笑む。
オロフがその言葉の意味をすぐに理解し、すかさず扉口を見やって声をひそめた。
「余計な事は言うな。どこで聞かれてるか分らんのだ」
「これは失礼」
そう言いながらも、さらに続ける。
「お渡しした薬も、ちゃんとお役に立ったようで」
「黙らぬか!!」
オロフは自ら大声を出し、
「いや、すまん……」
慌ててまた声を小さくする。
「しかし、ルート殿の話では、『生かさず、殺さず』と言っておったが、ユーハン国王陛下のあのごようすは……」
「まぁ、効果には個人差がありますので」
「……陛下はもうこのまま、お目覚めにはならないのか?」
「ふふっ。さぁ?」
ルートがさも楽しげに答える。
その表情に、オロフは言い知れぬおそろしさを覚えた。
「くっ! このようなことがもし明るみになってしまったら、私は………」
青白い顔をしてオロフが呻いた。
もしそうなれば、待っているのは身の破滅しかない。
「ご安心ください。証拠は残りませんので。我々が保障します」
「……信用しても良いのか?」
「ええ。もちろん」
ルートが上品な仕草で銀杯を取って喉を潤す。
「それで? エリシール王女殿下の始末は、もうお済すませになったのですか?」
「……あ、ああ。配下の手で既に済ませた」
気まずそうに視線を逸らしてオロフが答えた。
「うふふっ。……これは失礼」
オロフの態度がよほど可笑しかったのか、ルートが堪えきれずに吹きだしてしまった。
「そうですか。それは何より」
気を取り直して、ルートが言う。
「この度のこと、王子殿下はどこまでご存知なのですか?」
「陛下のことは……おそらく気付いておられる。気付いた上で、黙っておられる……」
「なるほど。では我々は一連托生というわけですね」
「そうだな。我々はもはや引き返せぬ。今後もよろしく頼むぞ」
「ええ。こちらこそ」
ルートは艶然と一笑した。




