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金髪クソ野郎

連投失礼します


 沈黙の宵闇の中、タリーの荒い呼吸だけが音を立てていた。




 ドンという音の後にヒューっと笛の音のような音が空を行く。破裂音と共に、暗い路地が照らされた。灯りの中に浮かび上がるフィオナとタリー。すぐに周りを騎士に囲まれた。




 タリーはフィオナの前に立つ。2度目の破裂音が響く。タリーの頭上を飛び、白い光にタリーの目は眩んだ。腕で光を防ごうとしたその一瞬をついて、タリーの目に鋭い痛みが走った。



 思わず、右目を押さえると、頭をつかまれ思い切り地面にたたきつけられた。



 閃光弾の眩しい光に、割れるように痛む頭。


「フィオナ!」



 頭を地面にたたきつけられたタリーは、それでもフィオナを守ろうと、フィオナの方に目を向け手を差し出す。



 タリーの目に血が入る。それでもタリーは目を閉じない。真っ直ぐ見つめるは守るべきフィオナだ。


 タリーの手に小さなフィオナの手が重なった。



「タリー」



 不安そうな、心配そうなフィオナの、弱々しい「タリー」と呼ぶ声。タリーはぐらぐら揺れる頭をなんとか起こし、そのまま、また、フィオナを背に庇う。



 タリーの繋いだ手の力が弱くなっていく。同じ側の足も引きずるように後退る。自分の戦力が低くなっていくのを肌で感じながら、それでも、タリーは剣を握る。



 敵は5人。うち、二人は既に倒した。あと三人。



 三人同時にタリーと背に庇われたフィオナに向かい来る。二人はタリーに攻撃をしかけ、一人はフィオナの捕縛が目的だ。



 真正面から向かってくる敵が剣を振り上げる。その隙をついてタリーは剣を横に一振りして、自分がつけられたと同じように目を狙う。剣を戻す際に、胸から斜めに刃を入れ無力化する。同時に体を回転させる。



 フィオナを攫おうと後ろから首に手を回そうとする敵の目を狙い短剣を投げた。タリーの右手の感覚は失われつつあったが、なんとか左手でフィオナを抱え、敵から取り戻す。



 フィオナを抱えた左腕に鋭い痛みが走る。首を回すと敵の剣がタリーの左腕を刺していた。




「フィオナ! 怪我は!?」



 左腕の中にいるフィオナまで剣が貫通していないか。タリーの気がかりはそれだけだった。



「こんなときに私のことなんて!」



 震える声でフィオナが答える。フィオナの目には、ほんの数秒前まで剣を操っていたタリーの右腕がだらんと下に垂れていて、剣がつきささった左腕で自分を守るタリーが映る。



 傷つけられた右目はもう開けていられないようで、左目だけでフィオナを捉える。その緑-色の瞳に浮かぶのは、タリー自身の苦痛ではなくて。ただただ、フィオナへの心配の色が浮かんでいた。




 濡れ羽色の瞳いっぱいに涙をためたフィオナが呆れたような掠れた声を出す。




「私は……大丈夫だよ。タリーが守ってくれてるから」

「よかった……」




 タリーが安堵を含んだ笑顔を見せる。本当に安心したように、弱々しい笑みを広げていく。そこに、左腕を刺していた敵が、タリーの腕から剣を抜き、タリーの後頸部めがけて剣を振り下ろ……そうとしたとき、敵の目に短剣が刺さった。



 タリーの服をまさぐり短剣を取り出したフィオナの仕業だった。



 力なくタリーが笑う。



「お前、やっぱすげぇ……」




 ポスンと、タリーの頭がフィオナの肩に乗る。その重みはいや増していく。



 フィオナは気付いていた。タリーは重傷だ。外傷性の脳出血。脳出血による右麻痺。出血は脳を圧迫して、タリーの呼吸を弱めていく。



(早く。早く、タリーを安全なところに)




「随分と派手にやってくれたね」

「公爵……」




 これまでの戦闘の様子を、文字通り高みの見物を決め込んでいたガブリエルが、屋根の上から降ってきた。



 王城で関わったガブリエルはただの金髪クソ野郎だ。だけど、そもそもそのクソのせいで王城に監禁に至っている。くわえてガブリエルは王国騎士団の団長だ。こんなのでも。その団長が従えていた騎士たちだ。戦力は充分なはずだ。




(この状況でガブリエルの相手なんかしてられない!)




「あんたの相手してる暇はないの」

「あぁ。その彼が心配か? 王城勤めの治癒師を……は、君にとってなんの魅力もないか」




 その治癒師が役立たずで呼ばれたのがフィオナだ。フィオナが王城勤めの治癒師を頼る理由は一つもない。



「分かってんじゃない。そこどいてくれる?」

「ねぇ、なんか勘違いしてない? 俺は、君を気に入っていると言ったよね?」

「あんたが私をどう思ってようとどうでもいい。そこどいて」




 フィオナだって分かってた。この金髪クソ野郎は、話は聞かないがフィオナにたいして好意的だった。自分が娶りたくないという理由が一番だろうが、それでもフィオナが魔法を使えることを黙ってくれていた。



 今この場で、フィオナを捕らえようとするのは、陛下の命令だから。ただそれだけだろう。



「あんたが、陛下の命令で動いてるのは分かってる。だけど今それは関係ない。今大事なのは、タリーの救命よ」



 「どいて!」とフィオナが声を荒げる。



 しかし、ガブリエルはフィオナの前を塞ぐさまを変えない。困った顔で肩をすくめた。



 陛下の命令に形だけでも従わなければならないガブリエル。その形だけのために命の危険にさらされるタリー。



 フィオナの頭は沸騰寸前だった。



 フィオナの足下に風が巻き上がる。周りの土埃、落ち葉も巻き込んで風が舞い上がる。



「もう。なにもかも。どうでもいい」



 どうせ、魔法が使えるとバレてしまっている。いまさら、ここで魔法を使ったところで。




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