プロローグ
割れそうなほどの頭痛に、開くことのできない瞼。地に倒れたタリーの右半身は既に自身の意思で動かすことはできず、どうにか動く左手を彷徨わせて、彼女の安全を確認する。
「……ふぃ……お、に……。ど、こ……だ……?」
舌が回らない。言葉にならない。
(フィオナは……。俺はフィオナを守れたのか……)
タリーの彷徨わせた左手が何かにぶつかり、タリーの手は小さな両手に包まれた。
「……タリー。大丈夫。……大丈夫よ。」
頭は混乱していて言葉の意味までは理解できない。ただタリーが感じたのは。
(あぁ。フィオナの声だ。良かった……)
頭が痛むのも、目が痛むのも、思ったように話せないのも。そんな自身の何よりも、フィオナの声が聞こえたことが嬉しかった。
「……ふぃ、……お、な、……け、が、は」
タリーの手を包んでいた小さな手の片方が離れていき、そっと、タリーの頬が撫でられた。
「あなたのおかげで無事よ。ピンピンしているわ」
言葉が理解できなくても、そっと触れられた頬の手が温かく、タリーの口元が緩む。
「……あなたは生きて。……幸せに……ならないと許さないんだから!」
ふと、タリーの体は温かなぬくもりに包まれた。鈍器で殴り続けられたような痛みは和らぎ、ヒリヒリとした瞼の痛みも癒えていく。力が入らず、重りと化していた右半身は力が入り、自身の体の一部だと、体が、心が理解していく。
何事もなかったように元の感覚を取り戻した自身の体。そっと目を開ける。目の前には泣き崩れる父と母。
タリーは、力が入るようになった右手で体を支え長座位になり、視線を彷徨わせた。
(いない……)
「フィオナは?」
タリーの母は「分からないの」と、ふるふると横に首を振る。
「少し前まで確かにここにいたのに……!!」
父が母の言葉を引き継ぐ。
「お前ごと光に包まれた。光が消えた時、お前だけがそのままここにいて、治癒師様のお姿は光と共に消えたのだ」
タリーの怪我と共に消えたフィオナ。傭兵のタリーは生傷が絶えない。だからタリー自身も分かっていた。アレは死に向かう重傷だったと。
タリーはその日。健康な体を取り戻し、生意気な少し年下の治癒師、フィオナを失ったーーー。