第16話
「……ここだ」
もともとは市役所の会議室として使われていた無機質な部屋。
だが、今はホワイトボードのほぼ全部を使ってぐちゃぐちゃに文字や数字などが書かれている。
生活もここがメインでしているようで、ほかにも食料や水なんかも部屋の隅やテーブルの上とかに散らばっている。
「人類は、どうして人類になったと思う」
まだ通路があるだけありがたい、そんなことを思いながら男の後ろをついて歩いていると、急に質問をされた。
「へ?」
おもわず何も考えていないことが露呈してしまう返答をしてしまう。
「俺はこの印がつけられた、あるいは付けられなかったタイミングだと思う。それも、ホモサピエンスとして明確に分化したタイミングだ。そのとき、宇宙人がDNAを挿入していった。適切に引き継がれるようにしていたが、当然生体機械でもエラーは起こる。ちゃんと受け継がなかった人物が現れた。それが俺らの祖先だ。急に何十万年もかけて同じところにいたのに、突然離れて地球上に散らばるような旅を始めた。これが、そのタイミングでDNAを入れられて、世界中に散らばることを強いられたんだ」
ホワイトボードに書かれていたのはどうやらそれらしい。
「生物がいたから地球は選ばれた、と?」
「いや近くの星にも生き物はいた。今はいないが、ね」
太陽系の簡単な図がある。
木星から内側で、太陽を挟んで地球の位置に別の名前の惑星が浮かんでいた。
俺が今まで聞いたことがない星だった。
「さて、簡単な話だ。DNAを挿入できるほどの技術力がある種族だ。ほかの星にも同じようなアプローチをしていたはずだ。それをしていたのが火星と金星だ」
とんとんとホワイトボード上の点をたたく。
確かに地球を挟んで内側と外側の惑星で、どうにか生きていける範囲には入っているようだ。
だが今は全くの不毛の地で、生物は一切いない、ということが定説だ。
「ここは地球に来る前の実験場だったところだ」
とんでもない話が直球で飛んできた。